『認知症の人、その本当の気持ち』たっつん著

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認知症の人、その本当の気持ち

『認知症の人、その本当の気持ち』

著者
たっつん [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041143001
発売日
2024/02/21
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『認知症の人、その本当の気持ち』たっつん著

[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)

 現役介護福祉士が綴(つづ)る、認知症を患う高齢者との職場での日々は、触れ合いと呼ぶにはあまりに激しい。それにも拘(かか)わらず面白く読めてしまうのは、あくまでそれらが「仕事」として行われているからだろう。

 自分が仕事を好きな理由は、仕事相手とのコミュニケーションが心地良いから。これは仕事だからと割り切れる関係にはほどよい緊張と安心があり、適度な距離感で相手と付き合うことができる。普段なら手に取る確率の少ないこの本にだって、「仕事」でなければ出会えなかったはずだ。

 「これは仕事だから」の先に、コミュニケーションの本質がぼんやり見えてくる。そして、一見ドライなイメージを持つこの言葉が、著者のまっすぐな働きぶりを通して変わっていく。

 一方で、家族というのは、近過ぎて遠い。家族だからこそ、適度な距離感が保てなくなってしまう。そんな時は「仕事」に頼るに限る。それが仕事であるがゆえに、プロが責任を持って最後まで向き合ってくれるはずだからだ。そうして踏み込んだ先に、家族だからこそ気づけない答えがあるのではないか。(KADOKAWA、1540円)

読売新聞
2024年4月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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