『生き物の「居場所」はどう決まるか 攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵』大崎直太著

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生き物の「居場所」はどう決まるか

『生き物の「居場所」はどう決まるか』

著者
大崎直太 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784121027887
発売日
2024/01/22
価格
1,155円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『生き物の「居場所」はどう決まるか 攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵』大崎直太著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

天敵不在空間巡る競争

 タイトルが長い。表紙だけで内容はほぼ察しがついてしまう。書名だけで手に取る人と取らない人にパーンと分かれるだろうか。

 評者はもちろん前者の部類、もっとも動機は昆虫が好きなだけにすぎなかった。ところが繙(ひもと)いてみると、ヒトの肖像の連続と重層的な論旨にやや驚いている。悪口ではない。いろんな読み方ができる点、表題とは別の文脈でオススメできそうだ。

 さしあたってタイトルどおり、論旨が展開する。生物生息の場が「どう決まるか」という命題に対し、いわゆる「ニッチ」が「天敵不在空間」だという通説をひとまずの回答とした。

 周知のダーウィンの進化論・自然淘汰(とうた)説ができあがる当時以来の学説を跡づけたうえで、「種」どうしの「競争」という視座から、「競争は存在しない」という学説の形成を解説してみせる。事情の通じない読者にも「ニッチ」ワールドが堪能できた。

 しかしそれだけで、話はおわらない。次いでそうした通説に反する持論を説きはじめ、別の競争「繁殖干渉」の存在を指摘する。競争のない「天敵不在空間」を争うもので、「競争はやっぱり存在した」。別の「種」のオスが誤って繁殖活動をくわえた結果、「種」が排除される「繁殖干渉」で、「ニッチ」をめぐる競争が発生する、というのが著者の所説である。本書の後半はそれをくわしく説いて、「どう決まるか」に重層的な答えを引き出した。

 「居場所」「ニッチ」は見つけなければ、見つからない。本書は「ニッチ」を求める「生き物」の物語であると同時に、それを見つめたヒト・研究者の物語でもある。

 どんな学説も「研究史の中で、大きな流れの渦の中に漂う小舟」にすぎない。著者の営為と「小さな達成感」に、研究者として共感を禁じ得なかった。「生き物」以上に人間のドラマとしても読みたい一書である。(中公新書、1155円)

読売新聞
2024年5月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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