『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『帝国妖人伝』
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『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』長江俊和著/『帝国妖人伝』伊吹亜門著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
事件を追う作家 業と闇
探偵小説の探偵が、探偵小説の書き手だったら。実在する作家や偉人が、架空の事件や歴史を生きる物語にはロマンがある。
『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』では、タイトルの通り主人公は江戸川乱歩と横溝正史。二人が出会った美貌(びぼう)の奥方が、ある日首のない惨殺死体となって発見される。犯人として疑われる乱歩、スランプに悩む横溝は事件の真相に辿(たど)り着くことができるのか。
事件は二つの視点を交互に行き来して進む。気がついた時、美しい女の生首と覚えのない原稿が入った鞄(かばん)を抱えていた男。手がかりを求めて原稿を読み進めていくと、どうやら横溝が書いたもののようで……虚実が入り交じり、どこまでが正しくてどこからが幻かがわからない。
二人の作家の友情と相剋(そうこく)、名作を生み出すまでの苦悩や足掻(あが)きに読み応えがあった。
『帝国妖人伝』はオムニバス形式の短編集。困窮した作家の那珂川二坊が出会う、奇妙な事件と人物たち。「長くなだらかな坂」では徳川公爵邸に入った盗人の謎を鮮やかに解決してみせる青年・福田房次郎。「法螺吹峠の殺人」では豪雨の中、殺人事件が起きる。行きずりの旅人たちの中から犯人を見つけ出したのは、墨染め姿の若い雲水だった。「攻撃(アングリフ)!」の舞台は那珂川が報告記事(ルポルタージュ)を書くため訪れたドイツのポツダム市。事件に隠された本当の目的と登場人物の正体に瞠目(どうもく)する。「春帆飯店(チュンファンファンディエン)事件」は昭和二十年、大東亜戦争の最中の上海。密室事件と、とある人物の隠された顔が明らかになる。「列外へ」では、北野天満宮で倒れた那珂川を助けた一人の青年・山田誠也が那珂川が抱えた闇を暴き出してみせる。
物語の謎と妖人たちの正体が密接に絡み合い、二重に楽しめる。
どちらの本も、作家が抱える業と闇の深さが描かれていて、呼応する面白さがある。是非二冊合わせて読んで欲しい。(講談社、2035円/小学館、1870円)