『ハクビシンの不思議』増田隆一著

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ハクビシンの不思議

『ハクビシンの不思議』

著者
増田 隆一 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784130639583
発売日
2024/01/17
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ハクビシンの不思議』増田隆一著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

 中国大陸・台湾に出かける機会が多い。そんな身にとって、感染症は悩ましい存在である。二十年前のSARSもひどかった。

 ハクビシンはその感染源とも疑われた動物である。そんな関心から手に取ってみた。英文タイトルに TheMasked Palm Civet in Mysterious History とある。たしかに何も知らないので、やはり「不思議(ミステリアス)」なのかと思ったし、また「歴史(ヒストリー)」と銘打つ以上、歴史家ならとりあげなければならない。

 案に違って、全編あっさりしていた。しかしそれは批判ではなく、「不思議」に感じる暇(いとま)もなかった、ということである。

 百ページあまりの小冊ながら、情報は溢(あふ)れんばかり。調査のいきさつ、過去の文献、来歴・分布、DNA解析、農作物被害、将来への提言に至るまで、およそ考え得る「不思議」を次々とりあげ、つぶさに解き明かしてゆくので、ごく素っ気なく見えてしまう。

 関心のない人には無縁の本ながら、これだけで初学者には、ヒトとハクビシンの関わりの歴史がほぼわかる。その意味で、とても贅沢(ぜいたく)な書物ではあった。(東京大学出版会、3300円)

読売新聞
2024年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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