【聞きたい。】田原史起さん 『中国農村の現在』 村内部での格差を気にする

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中国農村の現在-「14億分の10億」のリアル

『中国農村の現在-「14億分の10億」のリアル』

著者
田原史起 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784121027917
発売日
2024/02/21
価格
1,056円(税込)

【聞きたい。】田原史起さん 『中国農村の現在』 村内部での格差を気にする

[文] 寺田理恵(産経新聞社)


田原史起さん

急速な経済発展を遂げた中国では都市と農村の間で格差が生じ、都市へ出稼ぎに行く「農民工」や両親が出稼ぎ中の「留守児童」がしばしば話題になる。中国には大規模な農民反乱が繰り返された歴史がある。現代の農民は格差に不満はないのだろうか。

「この20年、農民は毎年よくなるという経験をしてきました。彼らにとっては満足なこと」。こう話す著者は農村社会学が専門。中国各地の農村に住み込んでフィールドワークを重ね、農村関連人口10億人の実像に迫った。農民は特権的な都市民と自分たちを引き比べるより、村内部での格差を気にすると指摘する。

「(1980年代初頭に)人民公社を解体したとき土地を平均的に分配し、農家は同じところからスタート。土地は勝手に売ることができないので保有したまま出稼ぎに行き、いざというときは帰る。出稼ぎ先でも同じ出身地の人と一緒にいて、ひたすら働く。まちの人と比べるより今の自分の生活をどうするか」

象徴的なのが家屋新築競争だ。南方の農村では家屋がビルのように垂直方向へ巨大化した。とある村では4階建てが多いが、内装工事を行うのは実際に居住する部分だけ。別の県の例では、6階建ての3~6階を息子4人の将来の家庭に割り当て、一致団結した家族の勢力を示している。

農民の行動原理は血縁を重視する家族主義に根差し、共同体重視の日本と異なる。また、宋代に確立された科挙により家庭に実力があれば社会的上昇が可能になり、上を目指す実力主義が続いた。「子供にいい教育環境を与え、子孫を拡大するというメンタリティー」があるという。

兄弟やいとこらが近くに住み、招いたり招かれたり。子供たちも家々を回って食事や宿題をするので、夫婦で出稼ぎに出られる。「子供が小学校へ上がる時期は戻って勉強をみるなど、臨機応変です」

2012年に習近平政権が発足した頃から外国人への警戒が強まり、「ホストファミリーに迷惑をかける可能性」が生じた。18年を最後に現地を訪れていないが、「資料や文献を読んで研究することはできる」。インドの農村にもフィールドを広げ、比較研究を行っている。(中公新書・1056円)

寺田理恵

 ◇

【プロフィル】田原史起

たはら・ふみき 東京大大学院教授。昭和42年、広島県生まれ。中国を約50回訪問。『草の根の中国』で地域研究コンソーシアム研究作品賞などを受賞した。

産経新聞
2024年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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