『化石に眠るDNA』
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『化石に眠るDNA』更科功著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
恐竜が好き。ごくフツーの男の子として育ち、恐竜は「夢」にも出てきた。けれどもその「復活」を「夢」みたことはない。絶滅動物の想像だから「夢」もあるわけで、そこは子どもながらに醒(さ)めていた。
しかし時代は流れて「復活」を「夢」みても、今はおかしくない。本書はそんな科学者たちの営為と成果をふりかえる。
子どものころは存在しなかった科学用語が目白押し。表題のDNAはじめ、PCR・iPS細胞など、なじみはあっても中身はわからない。それを平易に説明しつつ「夢」のゆくえを語る筆致には熱がこもっている。
「化石」を「史料」に、古代DNA・古代ゲノムを「史実」におきかえれば、「絶滅種の復活」は、消滅した過去の復元・歴史学にひとしい。そう思ったら、生物学の難解な術語や実験も、史料の読解と同断、俄然(がぜん)おもしろくなってきた。
大人になれば恐竜も「夢」には出てこない。科学が発達した現代ならなおさら。それでも「夢」を追いかける情熱と意味は理解できる。化石・恐竜に関心のない読者も、そこは無関係な話ではあるまい。(中公新書、1100円)