【聞きたい。】写真家・田附勝さん 『魚人』

インタビュー

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【聞きたい。】写真家・田附勝さん 『魚人』

[レビュアー] 篠原知存(産経新聞 文化部編集委員)

【聞きたい。】写真家 田附勝さん300
田附勝さん

■海って、自分たちって何だろう

 「美談とか、そんなんじゃない。ジャーナリズムっていうのも違うかな」

 青森県八戸市の漁師たちを取材した新作を出した。東北各地で撮影を続けているが、本作ではテーマを海に絞った。「種差海岸の南浜って、なだらかな山から森や集落や田畑がそのまま海につながってるような場所。このまま何もなくても住めるって感じで、これは撮らなきゃいけないと」

 写真集には、印象的なニュースが挿入されている。1年以上に及んだ撮影中、八戸市の漁港から津波で流出した鳥居の笠木(かさぎ)が米オレゴン州に流れ着いたことが判明。渡米して撮影し、地元に戻ってきた場面も写した。その話の途中で出たのが、冒頭の言葉だ。

 「ものが向こうの大陸に流れ着くのって、いま始まったことじゃない。考えてみたら、ずっと昔にアジアから人が渡ったわけでしょう。海って何だろう、自分たちって何だろうって考えさせられた」

名称未設定 3
田附勝写真集『魚人』(T&M Projects)

 なるほど。遠く離れた米国の海辺にも、魚がいて、人が住む。隔てられているようで、つながっている。

 「人が意識できるのってせいぜい100年ぐらい。でもじつは、俺らはもっと長い時間の上で暮らしてる。土地に流れている時間を、腰を据えてちゃんと見たい」。たとえばこれ、と台所をアップで撮った一枚を指す。人影はなく、まな板の上に包丁。皮をむいたニンジンと大根。無造作に丸められた布巾。

 「縄文時代もね、石包丁だったかもしれないけど、きっとおんなじ。見ているものは変わらないはず。普遍的な風景だと思う」

 写真集は2冊組み。一方は三脚を据えて撮る中判カメラの作品を、もう1冊は35ミリフィルムで撮影したスナップ写真を組んだ。写真家の“視点”がよく伝わってくる構成だ。「大きな話じゃなくて、隅っこにある営みから、写真を通じて社会に何かを見せていきたいね」(T&M Projects・6000円+税) 篠原知存

                   ◇

【プロフィル】田附勝
 たつき・まさる 昭和49年、富山県生まれ。東日本大震災の年に刊行した写真集『東北』で木村伊兵衛写真賞を受賞。ほかに『DECOTORA』『その血はまだ赤いのか』など。

産経新聞
2016年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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