<書評>『日本の経済政策 「失われた30年」をいかに克服するか』小林慶一郎 著

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日本の経済政策

『日本の経済政策』

著者
小林慶一郎 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784121027863
発売日
2024/01/22
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『日本の経済政策 「失われた30年」をいかに克服するか』小林慶一郎 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆最新の知見ふまえた検証と提言

 「失われた30年」と呼ばれる日本経済の長期停滞はどのような要因から生まれ、そこから抜け出すにはどうすればよいのか。著者によれば、日本経済の長期停滞の要因の底には「少子高齢化の進展」があるが、それをさらに悪化させたのが、1990年代から15年間ほど、不良債権の処理に欧米よりも時間がかかりすぎた政策の失敗である。

 別の要因としては、「格差拡大による人的資本の劣化」、「財政・社会保障の持続性への将来不安」、「低金利環境の長期化」があった。とくに、金利が恒久的に低下すると、長期的には成長率が低下するという最新の実証研究を丁寧に解説しているところが注目される。

 格差是正のための「給付付き税額控除」や金融政策の漸進的な正常化などの政策提言は、そこから導き出されるが、著者独自の提言としては、政治的な独立性と中立性を保証された独立財政機関や社会保障改革の常設検討組織の創設がある。マクロ経済学の最新の知見をふまえた優れた日本経済入門としても読める。

(中公新書・1012円)

1966年生まれ。慶応義塾大教授などを兼任。マクロ経済学。

◆もう一冊

『日本のマクロ経済政策 未熟な民主政治の帰結』熊倉正修(まさなが)著(岩波新書)

中日新聞 東京新聞
2024年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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