『記憶の渚にて』
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明文堂書店石川松任店「作家の死をめぐる記憶の物語」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
《極端に言えば、記憶は、各々の物語であって、決して現実でも事実でもないし、そうでなくともちっとも構わないのである。》
54歳という年齢でその生涯を終えた著名な作家「手塚迅」(〈ノーベル賞級〉であり、〈現代日本文学の巨星〉だそうです)が晩年に大手文芸誌に載せた随筆「ターナーの心」は周囲の者が読めば、でたらめとしか言えないような内容だった。
伝えたいことがあるから小説を書き、小説を書きたいから小説家になった、とそんな声が作品から聞こえてきそうなほどメッセージ性の強い物語だ。登場人物の考え方や登場人物同士のやり取りに部分部分では強烈な拒否感情を抱いたのも事実(特に結末は賛否が分かれそうでもあります)だが、そういう拒否感を魅力に変えてしまうような(すこし強引なくらいの)力強さもあります。
《私の兄は目を閉じたまま真っ直ぐに歩くことができた》という一文で小説は幕を開けるが、一人の天才の周辺を書いた本書は《目を閉じたまま真っ直ぐに歩くことが》できない人の背中を押すための本なのかもしれない。