『分かったで済むなら、名探偵はいらない』
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『ロミオとジュリエット』の悲劇は誰のものか?
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
居酒屋「ロミオとジュリエット」に通う刑事の《俺》は、恋人の父親に手錠をかけた過去があった。彼女が《俺》のことをどう思っているのか、分からないし、知りたくもない。その答えから逃げ回るために仕事にのめりこんだ《俺》は、いくつもの他人の答えを見つけ続けている。《そして気がつくと、望んでもいないのに「名探偵」と呼ばれるようになっていた。》
読んだことが無い人でもなんとなく内容を知っている文学作品って結構あると思いますが、『ロミオとジュリエット』はその筆頭候補に挙げられるんじゃないかと思います。同じ作者の『ハムレット』や『リア王』よりも一般的な認知度は高いという印象があります。そして本書は『ロミオとジュリエット』をミステリの素材として扱いながらも、「『ロミオとジュリエット』って、一途な愛を貫いた男女の悲恋でしょ」っていうくらいのざっくりとした知識であっても(いや逆にそのくらいのほうが)、強く楽しめる内容になっています。なんでそう言えるかって? だって私がざっくりとした知識しか持っていないから……。もちろんこれもひとつの見方であり、他の見方ももちろんあるのでしょう。
『ロミオとジュリエット』における悲劇は、本当に《ロミオ》と《ジュリエット》のためのものか。物事の見方をすこし変えるだけで、物語は大きく姿を変える。シェイクスピアの名作悲劇『ロミオとジュリエット』に隠された、《もうひとつの》悲劇が凝り固まった謎を解きほぐす。本書は『ロミオとジュリエット』に鏤められたエピソードの別の解釈が物語内で起きる事件に光を与え、意外な結末に持っていく連作ミステリ集になっています。
幼い頃、いつもの帰り道をすこし変えただけで世界が広がったような気がした。そんなちょっとしたことが大きな変化を作り出すことの美しさを再認識させてくれるような作品です。