『呪いを解く者』
- 著者
- フランシス・ハーディング [著]/児玉 敦子 [訳]
- 出版社
- 東京創元社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784488011284
- 発売日
- 2023/11/30
- 価格
- 4,070円(税込)
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『呪いを解く者』フランシス・ハーディング著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
絡み合う思惑 憎悪の先
フランシス・ハーディングの描き出す闇は、深くて美しい。最新作では、呪いが存在する世界を描く。
舞台となるラディスと呼ばれる国にある、謎めいた沼の森〈原野(ワイルズ)〉。そこに住むクモに似た生き物〈小さな仲間〉は、人間に呪いの力を与えると言われていた。憎しみに囚(とら)われた人、激しい怒りを抱えた人は呪い人になる。呪いをかけられた人は姿を消したり、動物や物になったりしてしまう。呪い人になる恐れ、呪われる恐れ、人々は二重の恐怖を抱えて暮らしている。
一五歳の少年ケレンは呪いを解く力を持っていた。けれどケレンのその力は同時に、触れたものを解き、損なってしまう。鉄の手袋をはめ、周囲との接触を避けるケレンと行動を共にするのは、自身もかつて呪いにかけられサギになっていた少女ネトル。継母にかけられた呪いは、ネトルたち四きょうだいを鳥に変えてしまった。人に戻ることができたものの、今もネトルはサギだった時の自分を忘れることができない。
誰が誰を呪い、誰を陥れようとしているのか。個人や組織の思惑が絡み合って、登場人物たちを呑(の)み込んでいく。
ハーディングは、人々を結びつける、共同体という大きな呪いからはぐれた人を主人公にすることが多い。今作のケレンもネトルも、二重三重にはぐれ者だ。けれど、理の外にいるからこそ見えるものもある。
時に人は抱え込んだ闇を扱いかね、呪いという形で人に転嫁しようとする。憎しみの先に何があるのか。憎むことは悪なのか。ハーディングはそこにも一つの答えを描き出す。
歪(ゆが)んでしまった親子愛や夫婦愛、同胞愛、相思いながら近づけない同性の二人、描かれる様様な関係を通して、それを読むわたしたちの中の社会規範や既成概念も問い直す。
孤独の寂しさと脆(もろ)さ、孤高の矜持(きょうじ)と強さ、両方を知る人に読んで貰(もら)いたい。児玉敦子訳。(東京創元社、4070円)