『戦国24時 さいごの刻』
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小道具の味が抜群 武将たちの最後の1日
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
切れ味良く、大変面白い趣向の短篇集である。題名にある“24時”とは、作品が史上有名な武将や軍師が死ぬまでの一日を描いていることを示している。
従って、その緊迫感や緻密な構成は比類がなく、この一巻を読み終わって、あの話が面白かった、いや、こっちの方が面白いといいあうのが本当の歴史・時代小説ファンだという気がする。
巻頭の「お拾い様」は、大坂夏の陣で豊臣秀頼が死ぬまでが描かれる。“お拾い様”=秀頼と、母であるお市の方の「─母のような不幸な女になってはいけない」ということばに呪縛された淀君の母子心中のように物語は進む。
が、このことばが別の意味を持ったとき、驚愕のラストが待っている。会心の作と見た。
次の「子よ、剽悍(ひょうかん)なれ」で描かれるのは、伊達政宗の父・輝宗殺し。父を殺してはじめて分かりあえる親子の姿が、戦国乱世の非情さを表している。
「桶狭間の幽霊」は、今川義元が織田信長に討ち取られるまでの話だが、信長はラストに少し登場するだけという異色篇。
ほとんどは、果敢に織田方を攻めようとする義元と、これを止めようとする死せる義元の腹違いの兄・玄広恵探(げんこうえたん)との対話で進められていく。ちなみに、この一巻に収められている作品は、皆、小道具の使い方が抜群だが、本篇では鼻の欠けた石地蔵がいい味を出している。
続く「山本勘助の正体」は、作者得意の怪奇趣味を通して、戦国の権謀術策の凄まじさをあぶり出している。
「公方様の一ノ太刀」は、剣豪将軍義輝の最期を扱っているが、この作品でも小道具としての百日紅(さるすべり)が光っており、塚原卜伝の一ノ太刀に新解釈が施されている。
そしてラストは、死の床にある家康による戦国総ざらい「さいごの一日」。
小気味よく、正に充実の一巻という他はない。