佐藤優、北原みのり 男と女の性の問題を縦横無尽に斬る

対談・鼎談

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性と国家

『性と国家』

著者
北原 みのり [著]/佐藤 優 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784309247854
発売日
2016/11/29
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

北原みのり・佐藤優『性と国家』刊行記念特別対談

[レビュアー] 佐藤優(作家・元外務省主任分析官)/北原みのり(作家)

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[左]佐藤優さん、[右]北原みのりさん

なぜ日本軍「慰安婦」問題は解決しないのか?
沖縄基地問題の真の意味は?
日本がロリコン天国である理由とは――?
「性」にまつわる時事問題から、普遍的ジェンダー論まで。
最先鋒フェミニスト×元・外務省主任分析官が、日本の歪みを赤裸々に暴き出す
「知」のバトル! この二人だからこそ見える、この二人の組み合わせでないと見えない、この国の男と女の性の問題を縦横無尽に斬る!

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12月23日に開催のトークイベントに先立ち、北原さんと佐藤さんに、本書の続きを特別対談していただきました。

■対談を終えて……

北原 いままで佐藤さんの本を手に取ったことのなかった女友達からは、100パーセントの確率で「佐藤さんっていい人なんだね!」という読後の感想をいただきます(笑)。
佐藤 そうですか、強面のイメージがありますからね(笑)。
北原 佐藤さんの読者、特に男性の方は、この本をどう読むんでしょうか。 
佐藤 これから感想が出てくるでしょうけど、ジェンダーのことをはじめて考えた、という啓蒙書にはなったんじゃないかと思っています。そもそも、男性というものが、根源的に筋力が強いというだけで、暴力性で女性を支配していることが間違いであるということ。そして、この世の男権的な仕組みをひとつひとつ解体(脱構築)していかなければいけないということです。この本で語りましたけども、児童ポルノとか管理売春とかが存在していること自体が論外だと思います。

■戦争と女と自由

北原 対談後、元衆院議員議員でジャーナリストの井戸まさえさんの取材旅行に同行して、サハリンに初めて行きました。祖国に帰れなかった多くが日本人女性と朝鮮の人々だったことを知り、彼女たちが帰ってこられなかった背景にある民族差別や女性差別を目の当たりにしました。
佐藤 たくさんの朝鮮人が日本の強制連行で連れてこられていた土地ですよね。
北原 レストランに入ると、ボルシチとキムチが一緒にテーブルに並ぶんです。スーパーに行ってもハングルがいっぱいで、韓国文化が根付いているのがわかる。あと、井戸さんの取材で、「ペレストロイカ時代は苦しかった」とお話される方が多くて驚きました。
佐藤 それまでは、少なくとも生活の保証はされていたから。
北原 私が知っている「自由」とは違う「自由」があるように感じました。
佐藤 「自由」についてのロシアで生活している人たちの発想は、現実的かつ根源的ですからね。ロシア語には「自由」を表す言葉が3つあるんです。ひとつめは「フリーダム」を表す「スボボダ」。ふたつめは「解放」を表す「オスボヴォジェーニエ」。一番興味深いのは三つめの「強い意志」を表す「ヴォーリ」という言葉。強い意志イコール自由なんですよ。えーい私の勝手にさせろ! というようなやりたい放題が自由だという感覚。
北原 へええーーー。「強い意志」って英語にも訳しづらいですよね。やっぱりロシア、面白い。佐藤さんとの対談でロシアに目覚めました(笑)。

■どの視点で語るのか

佐藤 自由かつ強い意志という視座から、北原さんとジェンダー問題をこの本できちんと語れてよかったと思っています。
北原 私もです。先月、ソウルで行われた、日本軍「慰安婦」問題の関連資料を世界記憶遺産に登録することを目的としたユネスコシンポジウムに行ってきました。そこで、クリスティン・チンキンさん(国際法研究者)が、「戦時性暴力というのは、いつの時代、どこの国でも起きてきた」とお話しされたんです。ここまでだと、元大阪市長の橋下徹さんと同じことを言ってる。橋下さんの発言は、戦争とはそういうもの、男とはそういうものだから、「慰安婦制度が必要だったことは誰でもわかる」という文脈ですが、チンキンさんは「平時の性差別が、紛争時や戦争で露骨に出る。だからこそ、平和時の社会における女性への差別や性暴力を、市民や社会が努力して変えていかなくてはいけない」と明言されたんですよね。
佐藤 そのとおりですね。
北原 本の中でも佐藤さんとたくさん語りましたけど、改めて、日本ほど性売買システムが高度に発達して、若い女性が食い物にされている社会は珍しいのではないでしょうか。アダルトビデオ女優は表現者だ、性売買従事者は労働者だ、風俗は貧困女性の最後のセーフティネットだ、と言うのは簡単ですが、フェミニストであれば、より丁寧に最も苦しんでる人に寄り添う立場を表明すべきだと思うんです。それなのに、日本のリベラルな学者や、一部の有名フェミニストは、この問題に関して鈍く、進んで女性を食い物にしている業者側に立ってしまう。
佐藤 そういう学者たちは、紙一重のところに自分がいるというような感覚ではないんでしょうね。戦時中、日本が追い詰められた状況のときに、京都学派の田辺元(京大教授)が「歴史的現実」という講演をして本にする。簡単に言うと、「個々人の生命は有限だが、悠久の大儀のためにそれを使えば永遠に生きる、だから国のために死ね」という内容で、学生たちはそれを聴いて、読んで特攻隊で死んでいったわけです。戦後に間違っていたと認めるけども、死んだ若者たちを思うと、懺悔で解消されることじゃない。
北原 いま、性産業の場で同じことが起きているように思えます。性差別の構造や暴力性に目を向けさせず、女性たちの自由意志、自己決定ばかりが語られる。学者や言論人による性を巡る言説の責任は大きいですね。

■「ポスト・トゥルース」が訳せない日本

佐藤 「ある面からこう見ればこう見える」という考え方は、絶対的に動かしてはいけない超越的な価値が外部にあるという前提を共有しない、仏教的な土壌がある日本人には受け入れやすいのだと思います。
北原 それで腑に落ちました。オクスフォード辞典が選んだ今年2016年の言葉は、トランプ現象などを表すpost-truth「ポスト・トゥルース」でしたよね。翻訳家のくぼたのぞみさんが、日本語には翻訳不可能に近い表現だと、フェイスブックに書かれていました。
佐藤 日本は、そもそもが「ポスト・トゥルース」の環境だから。「ポストモダン」が日本で流行った時期だって、誰も大きな物語なんて信用してなくて、もともとポストモダンだったんです。小さな差異から価値を作り出すことが貨幣と結びついて、ネオリベになった。ネオリベで金をもうけるために、射精産業が発達する……。
北原 その流れのなかでも、これからもジェンダーの視点から、当たり前のことを語っていきたいです。ところで、佐藤さんと対談を重ねていた秋ごろまでは、まさかヒラリー・クリントンを破ってトランプが大統領になるとは思ってもいませんでしたけど、ヒラリーの敗北はジェンダーだけの問題ではない気がします。
佐藤 私もそう思います。FBIのメール暴露がなければヒラリーに決まっていたと思うし。ただ、性差別の問題も少なからずあったと思います。「女のくせに生意気だ」という偏見です。
北原 まあそうですよね、女性差別を堂々と口にする男が大統領になったわけですから。

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北原みのり(きたはら・みのり) 1970年神奈川県生まれ。作家。津田塾大学国際関係学科卒業。1996年、フェミニズムの視点で女性のためのセックストーイショップ「ラブピースクラブ」を設立。以後、諸問題をジェンダー観点で考察する。著書に、『毒婦。』、『さよなら、韓流』、『奥さまは愛国』(共著)など多数。

佐藤優(さとう・まさる) 1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了。著書に、『獄中記』、『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)『聖書を語る』(共著)など多数。

Web河出
2016年12月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河出書房新社

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