<東北の本棚>被災後の苦悩と生命力

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災

『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』

著者
梶山 寿子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784160088825
発売日
2016/10/24
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>被災後の苦悩と生命力

[レビュアー] 河北新報

 「楽都・仙台」の東日本大震災後の状況を約2年間にわたって取材し、音楽の力を再認識させてくれるノンフィクションだ。未曽有の災害に直面した音楽家の苦悩や音楽から生きる力を得た被災者らの率直な声を吸い上げている。音楽の社会的役割や文化行政の在り方などを考え直す契機にもなる力作だ。
 仙台フィルハーモニー管弦楽団のミュージックパートナー山田和樹さんや楽団員、仙台市出身のピアノ奏者小山実稚恵さん、シンガー・ソングライターの小田和正さん、ロックバンドのMONKEY MAJIK、仙台市八軒中の生徒…。ジャンルや立場を問わず、音楽に携わる人間が震災とどう向き合い、動いたのかを取り上げている。
 震災直後、被災者を励ました曲として、八軒中の生徒が歌った「あすという日が」が話題となった。著者は単なる美談の紹介で終わらせずに、教諭や生徒の葛藤も浮き彫りにした。生徒も不安の中、必死の思いで歌い、震災に立ち向かっていた様子がつづられ、胸に迫ってくる。
 震災直後の仙台フィル楽団員の思いや被災者に寄り添った活動も紹介。楽団員が音楽とは何かを根底から問い、意識が変化していった経緯を取材している。
 帯文は仙台市泉区在住の作家伊集院静さんが執筆。「音楽は確かに力を持っている。絶望の時にも音楽は希望の光を与えてくれるのだ」と記している。
 著者は大阪府生まれ、東京都在住。神戸大文学部卒。関西テレビ放送やニューヨークで新聞記者として働いた後、フリーのライターとして活動している。
 文芸春秋03(3288)6935=1620円。

河北新報
2017年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク