作家・高橋源一郎が朝井リョウにブチ切れ!? 「お前売れてるからって天狗になってんじゃねえぞ」

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 作家の高橋源一郎(65)さんが司会を務めるNHKラジオ第1の「すっぴん!」に6月17日、直木賞作家の朝井リョウさん(27)が出演した。高橋さんが「若くて人気の作家。絶対つぶさないとまずいよ」と朝井さんの登場前から意気込む不穏な放送となった。

■お前売れてるからって天狗になってんじゃねえぞ

 高橋さんは朝井さんの登場直後、はじめる前に一言言いたいことがあるとただならぬ様子。そして「コラ朝井! お前売れてるからって天狗になってんじゃねえぞ」と声を荒げた。朝井さんのデビュー作の『桐島、部活やめるってよ』(集英社)の映画版を高橋さんの小学6年生の長男が見て、とても影響を受けてしまったという。そして登場人物の1人のように頻繁に動画を撮るようになってしまい「将来ユーチューバーになるとか言ったら、オメエが悪いんだ」と言葉遣いも荒くエスカレート。さらに小説家の高橋にとって屈辱的な事に「パパ、『桐島、部活やめるってよ』買ってきてよ、とうちの子どもが最初に買ってきてと言った小説はオメエのなんだよ! ふざけんじゃねえよ、俺の立場がねえじゃねえか!」とぶちまけると、朝井さんとパートナーの藤井彩子アナウンサー(46)は手を叩いて大笑い。高橋さんの言葉はもちろん冗談めかした文句だが、「僕の小説はまだ読んだことないんだよ?」と本気で息子の言葉にショックを受けている事を感じさせた。

■『何者』はコミュニケーションの変容を描いた

 朝井さんはまだ27歳。大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞。大学卒業後は兼業作家になり、社会人1年目に書いた『何者』(新潮社)で直木賞を受賞。同作は就職活動がモチーフとなっており、SNSを利用する若者の思いが交錯する様子を描き、最後にはどんでん返しが待っている。高橋さんは『何者』を「本当によく出来ている作品。SNSが小説になるのが驚き」と評し、朝井さんが同作を22、3歳で書いたと聞くと「やんなっちゃうよね、絶望したくなる」と作家としての嫉妬を表した。朝井さんは「就活の話が1層目にあり、2層目にはコミュニケーションの変容を書きたかった。それまでも変わってきていることは感じていたが、それが一番表面にでてきたのが就職活動だった。内定が出るかどうかの話とみせかけてコミュニケーションの問題を描きたかった」と同作に込めた思いを語った。

■残酷な就職活動によって変わる人間関係

 就職活動の非人間的な一面に話は及び、高橋さんは同書を読んで「こんなに残酷なことをうちの子どもたちはされているんだ」と自分の担当している学生たちのことを思ったという。藤井アナは「それまで仲好く出来ていた間柄が、急に牙を剥いたり、恥ずかしさが露呈するきっかけとなる出来事」と話すと朝井さんは「全人格を急に判断される。それまで個性や自主性を重んじられていたものが、急にルールが定められ物差しが1つになって、疲れてきて言葉も変わってくる」と『何者』でも描かれたプレッシャーによるコミュニケーションの変容について語った。

■「老害」と「新人類」の対立

 朝井さんの最新作『ままならないから私とあなた』(文藝春秋)は幼なじみの2人の女性が主人公。仲は良いが、まったく考え方の違う2人を通して「老害」と「新人類」の対立が描かれる。朝井さんは「老害」と「新人類」の対立を書きたいと思っていたが、年齢が離れている者の間ではそのような対立は当たり前で、これまでもたくさんの小説で書かれていると語る。しかし朝井さんの周りでも、同じものを見て同じ時代に育ってきた友達でも感じ方が全然違うことがあることに注目し、今作では幼馴染の間にそのテーマを持ちこんでみたと、執筆の経緯を明かした。

■朝井さんの“演説”

 女性2人が主人公の作品に高橋さんは「なんでこんなに女の子の気持ちがよくわかるように書いてあるの」と問うと朝井さんは「“よくわかるように”なんです。本当はわかってない。男を書くときは男をやったことがあるぶんブレーキがかかる。女性を書くときはある種ファンタジーのまま書ける。大胆なことをいうときは女性に言わせる」と“演説”するかのように強い言葉で語る女性が登場する理由も合わせて答えていた。今作もクライマックスで『何者』と同じように女性の口を借りて朝井さんの“演説”がなされる。高橋さんは「自己主張は気恥ずかしい。自分が言うと変だが、登場人物に言わせると伝わりやすい」と共感を示した。また「あれがないと朝井君の小説じゃない」とクライマックスのカタルシスに満ちた“ノックアウトシーン”を期待していると語った。

 他にも、朝井さんが作詞を担当したNコンの課題曲「次元」についてや、この秋佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生ら豪華キャストで映画化される『何者』について、『ままならないから私とあなた』の続編構想、朝井さん自身の就職について、朝井さんがファンのつんく♂や℃-uteについてなどがたっぷりと語られ、不穏な空気で始まった放送だったが、結果的に笑いに包まれ大いに放送は盛り上った。

 またその日の「源ちゃんのゲンダイ国語」のコーナーでは『100均フリーダム』内海慶一[著](ビー・エヌ・エヌ新社)が取り上げられた。

すっぴん!」はNHKラジオ第1放送にて月曜から金曜8:05から日替わりのパーソナリティーで放送中。高橋源一郎さんは金曜日を担当している。

Book Bang編集部
2016年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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