いばらない生き方―テレビタレントの仕事術―
2024/06/05

「全員が苦しむと思った」中山秀征が明かす“ポスト飯島愛” 久保純子・しょこたんなど『ウチくる!?』の決断と変遷

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元NHKのアナウンサー久保純子さん

『ウチくる!?』『THE夜もヒッパレ』『TVおじゃマンボウ』など人気番組のMCとして活躍し、『静かなるドン』では俳優としても存在感を発揮、現在も情報番組『シューイチ』などで絶妙な緩急で番組を仕切る中山秀征さん。

 1999年にスタートした『ウチくる!?』は、ゲストの生まれ育った土地を巡って多くの芸能人の素顔を映し出し、長寿番組として親しまれた。中山さんと共に番組の人気を支えたのは、2008年に亡くなったタレントの飯島愛さんだ。しかし、07年の芸能界引退を機に降板することになり、中山さんや制作陣は後任選びに頭を悩ませたという。

“愛ちゃん”という大きな存在の後で番組を支えたのは、どんな芸能人だったのか。中山さんの著書『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』(新潮社)から、その裏側を紹介する。

(※以下、同書より引用・再構成しました)

“意外な人選”は「全員が苦しむと思ったから」

 長寿番組ほど、変化を続けているもので、19年続いた『ウチくる!?』に、大きな変化が訪れたのは2007年でした。愛ちゃんの芸能界引退に伴い、2代目MCに元NHKのアナウンサー、久保純子さんが就任した時です。当時「意外な人選」と話題になりましたが、実は裏話があって……。

 僕も参加した後任選びの会議では、当初、番組をいい意味で壊してくれる“ポスト飯島愛”を探そうと、グラビアアイドルなどの名前が挙がっていました。ただ、どうにもしっくりこない。全員が頭を悩ませる中、僕は思い切ってこう言いました。

「愛ちゃんと正反対のキャラクターはどう?」

 なぜなら、ポスト飯島愛を求めると、この先、全員が苦しむと思ったから。「愛ちゃんなら、もっとこうしていたはず……」と、きっと抜けた穴をみんなが意識することになる。それは新しく入ったタレントさんにも失礼です。

 ならば、タイプの違う人と組んで、今度は“中山の立ち位置”を変えればいい。自分を変えることは、『TVおじゃマンボウ』で麻木久仁子さんと組んだ時に身につけた僕のスタイルで、その点は、自信がありました。

 快諾してくれた久保さんには、事前に「あくまで久保さんらしく」と伝えていたものの、不安だったはず。

 でも、いざ始まれば、進行は完璧! 何より驚いたのは、抜群の記憶力でした。

 例えば競泳の金メダリスト・北島康介さんがゲストの回。僕が話の流れで、北島さんに「アテネ五輪(100メートル平泳ぎ)の優勝タイム、何秒でしたっけ?」と聞くと、北島さんは「え~っと……」と、すぐに思い出せない。

 そんな時、「1分0秒08ですよね」と、実にサラッとフォローしてくれたんです。この時だけでなく毎回、久保さんは台本や資料にはないデータを、全て頭に入れてきていました。しかも必要な時にだけ、さりげなく出す。「覚えてきてるなら言ってください! もったいないよ」と僕が言うと、「別に普通のことなので……」と。

『紅白歌合戦』の司会で、辞書のように厚い台本を丸暗記していた久保さんにとっては、朝飯前だったのかもしれませんが、あまりの凄さに僕も北島さんも、ただただ驚くばかり。

 そんな久保さんだからこそ、ロケでお酒を飲んで酔っぱらってしまったり、衣装のままプールに落ちる、民放バラエティの“洗礼”を受けたりすると、“振れ幅”があって面白い! 彼女の完璧さと意外性に支えられ、僕もかなりラフにやらせてもらい、愛ちゃん時代とは違った、MCコンビの“型”が出来上がりました。

“アニメオタクタの変わった子”だった「しょこたん」を3代目に

 その久保さんが卒業した2011年、今度は「久保さんとは違うキャラを」と、3代目に選ばれたのが、事務所の後輩“しょこたん”こと中川翔子さんでした。

 当時「アニメオタクの変わった子」というイメージだった彼女を、僕は、松本明子さん以来、久々に会社に現れた“バラエティの逸材”と注目していました。

 一方、長年『ウチくる!?』のファンだったしょこたんは、「本当に私でいいんでしょうか……?」と最初はかなり恐縮していましたが、すぐにプロ顔負けの画力で、ゲストの似顔絵を描く名物コーナーを生んだり、実はかなりの大食いで、激辛料理にも強いという意外な一面を見せたり、MCを務めた期間で、テレビタレントとしてどんどん成長していきました。

 その頃、40歳を過ぎていた僕は、大量に食べるしょこたんに、「やめておきなさい……」なんて、娘を心配する父親の気分(笑)。

 成熟期を迎えていた番組に新しい風を吹かせ、その後7年も続けられたのは、間違いなく、しょこたんの頑張りと成長のおかげです。

 女性MC交代のような“大きな変化”だけでなく、『ウチくる!?』では、ミニコーナーなど細かい部分を、早いスパンで次々と変えていきました。「故郷に錦を飾る」というコンセプトは守った上で、二番煎じではない、新たなチャレンジをしていったのです。

 40年以上、色々な番組の現場を見てきましたが、この「軸を変えない信念と、軸以外を変える柔軟性」は、『ウチくる!?』に限らず、長寿と言われる人気番組に共通する姿勢だと考えています。

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【『ウチくる!?』で学んだ、明るく生きるヒント】
・「意外性」への挑戦を怖がらない
・番組の軸は変えず、軸以外は柔軟に変える

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『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』では、2008年に亡くなった飯島愛さんの天性の才能や先見性、そして中山さんの前だからこそ見せられたであろう、弱音を吐く姿も語られている。

もっと読む:折りたたみ携帯の時代に「YouTube やった方がいい」と言った天才・飯島愛がロケバスでヒデちゃんにだけ見せた姿とは

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中山秀征(ナカヤマ・ヒデユキ)
1967年生まれ。群馬県出身。テレビタレント。14歳でデビューして以来40年以上にわたり、バラエティ番組や情報番組の司会、俳優、歌手として活躍している。

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