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大森望「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 猛暑の夏は空調の効いた部屋で読書三昧に限る。ということで、本にまつわる新刊5冊を選んでみた。

読書で離婚を考えた。』は、SF作家の夫(円城塔)と怪談作家の妻(田辺青蛙)による交換日記ならぬ交換書評集。配偶者が指定した本を読んでその感想を書いたら、次に相手が読む本を指定するという形式の交互連載(全40回)をまとめたもの。夫婦とはいえ本の読み方は全然違って、回を追うごとに互いの異質さが際立ち、そのすれ違いっぷりがほとんどコントというか、高度な夫婦漫才に見えてくる。円城塔の小説は難しくて……と思ってる人にはとくにおすすめ。一部、ダイエット日記も楽しめます。

文学効能事典』は、題名通り、読者の症状や悩みに応じて本を紹介する実用的(むしろ円城塔的?)ブックガイド。“花粉症のとき”は『海底二万里』、“重い病気ではないかと心配なとき”は『秘密の花園』……てな具合。“SFが嫌い”という困った症状に対する処方箋も載ってます。なるほど。

書架の探偵』は、巨匠ウルフが一昨年、84歳で出した最新長編。公共図書館に作家の複生体(リクローン)(オリジナルと同じ肉体と記憶と人格を持つが、法的にはモノ扱い)が所蔵されている―というぶっ飛んだ設定のもと、うら若き美女に借り出された“蔵者”(前世紀のミステリ作家)の冒険を語る奇天烈ハードボイルド。

 新潮文庫nexから新版が出た桜庭一樹『青年のための読書クラブ』は、異端者が集う弱小サークル「読書クラブ」のメンバーが語り手となり、名門お嬢さま学校(聖心女子学院風)100年の歴史を語る連作集。

 最後に、川口則弘『芸能人と文学賞』は、芸能人の直木賞候補第一号の徳川夢声から始まって、芸能人が書いた小説の歴史を綿密な調査で解きほぐしてゆく、ゴシップ満載の一冊。

新潮社 週刊新潮
2017年8月17・24日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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