【対談】ビートたけし×又吉直樹 男と女は会った瞬間が一番いい〈『アナログ』刊行記念〉

対談・鼎談

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アナログ

『アナログ』

著者
ビート たけし [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103812227
発売日
2017/09/22
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

男と女は会った瞬間が一番いい

[文] ビートたけし又吉直樹(お笑い芸人・作家)


左からビートたけしさん、又吉直樹さん

ビートたけしさんが70歳にして挑んだのは、なんと自身初となる恋愛小説。芸人の後輩であり、小説を書くにあたって刺激を受けたという芥川賞作家の又吉直樹さんと、お笑いと恋愛と文学について語りました。

 ***

芸人には文学の力がある

又吉 『アナログ』は初の恋愛小説ということなんですが、たけしさんはこれまでも『少年』や『菊次郎とさき』などたくさん小説を執筆してこられましたね。

たけし ゴーストライターですけど。

又吉 最初から言いますか、それ(笑)。

たけし 喋ったんだけどほとんど書いた覚えがないから、後から読んで「はあーこういう本だったのか」と気づく今日この頃です。でも今回は本当に自分で書いたからね。ペンだこできちゃったよ。

又吉 手書きで書かれたんですか?

たけし まずはノートにボールペンで書いて、4冊目になったところでワードに打ち込んでいったの。又吉先生はどうやって書いてるんですか?

又吉 いやいや、先生じゃないですよ(笑)。僕は初めからパソコンですね。

たけし 今は普通そうだよな。だけど俺もし本が売れたら、そのノートを1ページずつ破ってネットオークションに出そうと思ってんだ。1枚5万くらいで売れたら大儲けだなと思って。ときどき、行間に「コマネチ」って書くつもり。

又吉 売れるでしょうね(笑)。

たけし 俺は前から、簡潔に言葉を選んで、短い時間で笑いに持っていく漫才師には文学の力があるはずだって言ってきたの。自分では失敗してきたけど、又吉さんみたいな成功者が出てよかったなと思ったね。

又吉 そんな、とんでもないです。だけど芸人が小説を書けるはずっていうのは、僕も同じ気持ちでした。最初から小説家の人っていないじゃないですか。色々な職業の人が作家になっていく。そういう意味では、芸人は日常的にネタを書いて架空の自分を動かしているところがあるから、作家性みたいなものをある程度は持っているんじゃないかと思っていたんです。それをたけしさんに言っていただけるのは、すごく嬉しいですね。

たけし しかし『火花』の書き出しには驚いちゃったね。花火大会で興行師に呼ばれて漫才するっていうのは俺もよくやってたんだけど、視点が文学だなって。俺にも演台の上に立った漫才師の視点があるはずなんだけど、夏のアスファルトの熱気、海岸のむせ返るような暑さなんかの描写を読んでさ、あ、これが文学なんだと思ったわけ。当たり前なんだけど、どこに視点を置くかが表現なんだよな。あれを漫才でやると「暑くてよ、熱海の営業で参っちゃうんだ、花火がバンバンバンバン上がってよ、ウケねえし誰も聞いてねえしよ、だけどよ、すごい先輩がいてな」っていきなり毒蝮三太夫みたいになっちゃうんだよな。

又吉 (笑)。僕、『アナログ』はたけしさんが書いたってことを一旦忘れようと思って読ませていただいたんですが、本当に作品の世界に引き込まれました。すごく面白かったです。でもたまに、普段たけしさんがお話しされてることとかぶる部分もあったりして。

たけし かぶったり、ずれたり、もうヅラ話が大好きで(笑)。いつもの癖で、小説でも止まんなくなっちゃうんだよな。そのネタならノート1冊分あるんだけど、いま俺は純愛小説書いてるんだって自分に言い聞かせて、2、3ネタで終わらせるのに苦労いたしました。

又吉 そんなご苦労もあったんですか(笑)。主人公の男性が、建築デザイナーじゃないですか。モノを作る人間の、仕事に対するあり方と恋愛に対する向き合い方が共鳴するというところ、すごく面白かったです。人間の生業と恋愛がお互いに影響を与えているというのは、僕自身が小説を書くときにも意識したことだったので。

たけし 俺ね『火花』も『劇場』も久々に一生懸命、理解しようと思って読んでみたんだ。まあまあ、理解できた。だけど根本的に俺と又吉さんで違うのはね、育った時代のお笑いだとも気付いたんだよな。

又吉 なるほど、そうかもしれないです。

たけし 又吉さんの時代は俺が知ってる漫才ブームの後に生まれた漫才なの。芸が洗練されてんだ。俺の時代はもっと粗野っていうか、面白い先輩って言っても「なんかクルクルパーだけど、凄いな」くらいの跳ね方だった(笑)。でも今トップにいる人たちっていうのは、うまい漫才をいっぱい見て育った、センスのある人なんだよね。だから又吉さんが書く凄い人と、俺にとっての凄い人って、なんか別世界の人みたいなんだよ。

又吉 でもたけしさんの時代の方が、よりルールがないというか、無茶苦茶な先輩がいらした印象があります。

たけし 俺が好きだったのは、漫才中に手品ばっかしてた先輩。鳩出してツッコミに「鳥出すな」って怒られるっていう。

又吉 それ面白いですね(笑)。

たけし そういうことが許される時代だったんだよね。あの頃はスターを作る土壌があったんだよ。野球でいうと、長嶋さんよりイチローの方が断然バッティングうまいと思うんだけど、やっぱり長嶋さんの方がめちゃくちゃ人気あったっていうのと似てるよね。今はお笑いも上手い人がたくさんいて、情報もたくさんあって、みんなが頭並べてる中で突き抜けようがない状態じゃない。『火花』に出てくる先輩は確かに突き抜けてるんだけど、散々ネットで叩かれたりした人たちの跳ね方っていうのかな。生々しいというか、明るくないんだよね。

又吉 ああ、そうですね。

たけし 大変だよね。

又吉 僕らも漫才のショーレースに出た時、大先輩の審査員の方からダメ出しされたことがあるんです。「君のタイプだったら昔○○という人がいて、ネタ中にポケットからうどん出したりしたよ」って言われたんですけど、今の時代なかなかうどんは出しづらいなと思って(笑)。そういう無意識の流れみたいなものから抜け出したいっていう気持ちもあるんですけどね。

新潮社 波
2017年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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