『大家さんと僕』
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【『大家さんと僕』刊行記念座談会】矢部太郎×春日俊彰×能町みね子 私たち、大家さん大好き人間です。
[文] 新潮社
SNSで話題の実話漫画『大家さんと僕』の刊行にあたって集まったこの3名、いったい何の共通点が? デジタルな時代にアナログな関係、「間借りのススメ」を大いに語り尽くす!
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■大家さんと旅行って、「あるある」?
能町 一対一ではそれぞれ面識がありますが、三人で話すのは初めてですね。自分で言うのもナンですが、かなり異色な組み合わせで。
矢部 共通点は、大家さんが住む一階の部屋のすぐ上に間借りしている、したことがあること。春日くんと僕は今もしていて、能町さんは五年くらい前まで約十年間されていたんですよね。
能町 そうです。
矢部 僕の漫画『大家さんと僕』は、仲良くなった大家のおばあさんとの暮らしを描いたもので、今日はお二人と間借りの楽しさや面白さ、大家さんとの思い出などをお話しできればと思いました。
能町 矢部さんが漫画を描かれたことはツイッターで見てもともと気になっていたのですが、読んだらものすごく面白かった。特に間の取り方が素晴らしくて、矢部さん、もう普通に「漫画家」ですよ。
矢部 わぁ、嬉しいです! ありがとうございます!
春日 私も読みました……大したもんだなっ!
矢部 ありがとう、持ちネタで褒めてくれて(笑)。
春日 でも冗談抜きで、面白くて一気に読みました。正直に白状すると、初めはパラパラっと何話か読んで情報を拾って、それに合う自分の話をすればいいかなって思っていたのですが、読み出したら「分かるなー」って共感するところがたくさんあり、結局全部読んじゃいました。
能町 家賃を手渡しするときに部屋に呼ばれてお茶をする、会話の端々に五十年以上前の話題が出る、世間話の大半が健康や体調のこと……といった「大家さんあるある」に、私も共感しまくりでした。
春日 大家さんのちょっとした「毒」もたまりませんよね。「二〇二〇年まで生きてないから、東京五輪には興味ないわ」なんてブラックジョーク、どう返答していいやら(笑)。
矢部 ギャグなのか本気なのか分からないことが結構あって、笑っていいのかいつも迷います(笑)。いまの家に住んで八年になりますが、大家さんと仲良くなったのは家賃の手渡しがきっかけでした。渡しに行くたびにお茶に誘われて、それが思いのほか楽しく毎月必ず大家さんのお部屋にお邪魔するようになったんです。
能町 毎月のお茶会ですね(笑)。
矢部 それ以外にも「スイカ半分いかが?」「桃むいたから来ませんか?」と、お裾分けのお誘いもしょっちゅうあって。
能町 私の場合、大家さんとのお茶会で出されるのはなぜか毎回フルーツ牛乳と桃缶でした。
春日 なぜその組み合わせ(笑)。
能町 たぶん、若い人は甘い物が好きという認識なんです。
矢部 「お若いのだからたくさん食べて」と勧められたり、地方ロケで買ったお土産を渡すと、必ずそれ以上のお返しを下さったり……。
春日 矢部さんがすごいのは、大家さんと一緒に出かけているでしょう。新宿の伊勢丹でご飯食べたり、まさかの九州旅行に行ってしまったり、すごいですよね。
能町 もはや友達です。
矢部 一月分の家賃を払いにいったときなど、そこから少しお金を抜いて「これお年玉です」ってキャッシュバックして下さるんですよ。
春日 それは羨ましい!
能町 友達であり孫であり……。私は一緒に外出はしなかったけど、背中に湿布を貼ってあげたりはしましたね。
矢部 能町さんも充分、よく分からない関係じゃないですか(笑)。
春日 私はお二人ほどの関係ではないかな。大家さんの部屋にあがったこともなく、家賃を渡しに行った時に余っていた栄養ドリンクを頂いたのが唯一のお裾分けかなぁ。それに今、四ヶ月くらい家賃を滞納しちゃってるんですよ。「そろそろ今月はお願いします」と筆ペンで書かれた紙がドアに貼られてました(笑)。
能町 え、なんで!?
春日 私も手渡しなんですが、毎月だと忘れてしまうことも多いからここ何年かは半年分一括で払うことにしていて……。
矢部 そのまとめて払うのを忘れちゃっている(笑)。
春日 タイミングが合わないだけです、払わないつもりは断じてない!(笑)