38歳女性が出会い系サイトで会った70人に本を薦めまくって感じたこと

対談・鼎談

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出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

著者
花田 菜々子 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309026725
発売日
2018/04/18
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

【特別対談】花田菜々子×岸政彦「〈その場限り〉の切実さについて」〜『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』刊行記念

[文] 碇雪恵

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』著者の花田菜々子さん
『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』の著者・花田菜々子さん

 去る5月26日、大阪のスタンダードブックストア心斎橋店で、書店員の花田菜々子さんと社会学者の岸政彦さんによるトーク&サイン会「〈その場限り〉の切実さについて」が開催されました。花田さんが刊行した『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(通称「であすす」)は発売直後からSNSを中心に口コミで評判が広がり続け、現在発行部数3万部を突破。「ダ・ヴィンチ」誌の「今月のプラチナ本」にも選ばれるなど、新聞、週刊誌などでも話題となり、「まさかの感動を味わった」「一歩踏み出す勇気をもらえた」と大きな注目を集めています。お二人が語る、他者との出会いとそのかけがえのなさとは……?

 ***

岸政彦(以下、岸) これはどういう本かというと、出会い系サイトで出会った人に本をすすめた話ですね、って、タイトルそのまんまですが……。使っていたのはどんなサイトですか?

花田菜々子(以下、花田) 出会い系サイトというと恋愛目的のものを想像されがちですが、わたしが使っていたのはいわゆる“意識高い系”のような人たちの情報交換を目的にしたサイトです。カフェで待ち合わせして30分間話して、後でその人がどんな人だったかを会員みんなが閲覧できるサイトに書き込むという点で、ふつうの出会い系よりもオープンな面があるのかなと。

岸 実はこのサイトの名前を教えてもらって、今日のトークのために登録してみたんですよ。プロフィールには「社会学者です。人の人生を聞く仕事をしています」と書いたんですが、まっっったく反応がなかった(笑)。こっちから申し込みするのもいろいろ考えてしまって、結局誰とも会わないままでした。ちょっとぶっちゃけたところから聞きますけど、けっこうきわどい目に遭ってるでしょ?

花田 そうですね。でも意外と、それほどキモさは感じなかったですかね。

岸 この本のなかで最初の方に会う人たちは、“シモ”目的でしたよね。そういう目的で来ている男性たちに対しても何も思いませんでしたか?

花田 本を読んだ方からも、「ほんとクズですね」とか「最初のふたりでウンザリしてやめようと思いませんでしたか」とか言われますが、たしかに残念な気持ちはありつつ、それ以上に「知らない人としゃべったぞ!」っていう前向きな実感の方が当時は大きかったですね。

岸 最初はたまたまのきっかけでそのサイトを知ったと書いてましたが、その頃は寂しかったんですか?

花田 寂しかったというよりは、自分の生きている世界が狭いものだなと感じていて。自分の居場所だと思っていた会社と、少しずつ距離が生まれてきたのがちょうどその頃でした。本よりもアニメのキャラクターグッズに力を入れようと、会社が方針を変えていくなかで仕事への自信も失われてきて、自分には本当に何もなくなってしまうんじゃないかっていう不安がありました。

岸 行き詰りや居場所のなさを感じたときどうするかっていうと、人はまずインドに行って人生変わりがちですよね(笑)。ぼく自身がその手なんですけど。いま沖縄を研究テーマにしてますが、最初に沖縄に出会ったのは25年ぐらい前で、当時大学院に落ちて、仕送りももらえず金がない。さらには当時の彼女にも振られたりして、そういう嫌なことが続いたあるとき沖縄にハマったんです。それが研究のテーマになった。そのあと、そういうのってただの「植民地主義」なんじゃないかとか悩んで、10年ぐらい何も書けなくなりましたが、最初に書いた沖縄の本(『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』ナカニシヤ出版)は、それまで生きてきた25年間の落とし前をつけるつもりで書いたんです。

花田 沖縄の話だと先日出された『はじめての沖縄』も、とても面白かったです。沖縄についての真摯な語りが、自分についての語りにもつながっていくところが素晴らしかったです。突き詰めていくと自分の話になるっていうところが、沖縄を利用して自分を語るっていうのとは全然別物で。

岸 自分に自分の本をすすめられている感じですね(笑)。現状を打ち破る方法として、ぼくの場合は「別の場所」に向かったわけですが、花田さんは人に会うことを選んだのがすごく面白いなと思いました。

花田 アウェイの世界に飛び込まないと自分は満たされないだろうと思っていたのかもしれません。たとえば「ちょっと気持ちを変えたい」っていう目的だったら、ヨガを習い始めるとか。

岸 いまちょうどぼくも「ホットヨガ習いがち」って言おうとした(笑)。

花田 (笑)。あと、本をすすめるにしても本好きの人のコミュニティを対象としてしまうのでは、傷が浅くて済んでしまうと思ったんですよ。浅い傷だと自分の渇きみたいなものが満たされないだろうと。自分がアウェイであるような場所での他者との出会いというか、そういうことによって修行する必要があるのかなって。

岸 自分を変えようと本気で思ってたんですね。ぼくも沖縄にハマったときはちょうど、自分の退路を断ちたくて、まったくちがう世界のことをしようと日雇い労働を始めた時期だったんです。今日岸和田の方いらっしゃいますかね。岸和田市民病院の4階フロアはぼくがつくりました(笑)。日雇いのバイトはなんだかんだで4年間も続けました。
 全然ちがう世界に飛び込むことで自分を変えようとする、ということは、みんなよくやると思うんだけど、そこで「人と出会う」という道を選んだのは、ほんとに面白いと思いました。ぼくも、どうしたら自然に人と出会えるのかっていつも考えています。『断片的なものの社会学』(朝日出版社)のなかで「寄せ鍋理論」っていうのを書いたのですが、たとえばその辺の道端で「今からしゃべりません?」って声をかけたらすごくひかれるでしょ? あと友だちが「ちょっと一回喋らへん?」って言って来たら、なんか深刻な話かなと身構えますよね。でもたとえば人を集めて鍋を囲んだ状態なら自然に話ができる。これを「寄せ鍋理論」と名付けました。ぼくにとっての寄せ鍋が、花田さんにとって本だったのかな。

社会学者の岸政彦さんと書店員の花田菜々子さん
書店員の花田菜々子さんと社会学者の岸政彦さん(スタンダードブックストア心斎橋店にて)

岸 あと花田さんの「すすめたい」って願望も面白いですよね。

花田 それが自分の得意なところなのかなと思っていて。たとえば人に服を選ぶことに似ているのかなと。岸さんを見たときに「今着ているその色もいいけど、こういうのも似合いそうですね」ってすすめるような。

岸 ドキッとします…このポロシャツ似合ってなかったら言うてくださいね……。

対談構成=碇雪恵

河出書房新社
2018年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河出書房新社

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