平成精神史 片山杜秀(もりひで)著

レビュー

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平成精神史 : 天皇・災害・ナショナリズム

『平成精神史 : 天皇・災害・ナショナリズム』

著者
片山 杜秀 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344985261
価格
972円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

平成精神史 片山杜秀(もりひで)著

[レビュアー] 長山靖生(思想史家)

◆近代日本の巨人生き生きと

 平成は「平らかに成る」と書くにもかかわらず、平穏な時代ではなかった。バブル崩壊以降、企業の収益はさておき、庶民の懐具合は右肩下がり。少子高齢化には歯止めがかからず、国際的な影響力は低下する一方である。その上、大震災や原発事故も起きた。

 そんな平成時代の「精神史」を問う本書は、しかし平成ではなく、明治・大正・昭和の出来事に多くの頁(ページ)を割いている。その理由はちょっと考えれば分かる。平成の足元には近代日本が埋まっている。現代日本を蔽(おお)っている虚無感や無力感、その一方で広まる刹那的な快楽主義、根拠のない自己肯定感やナショナリズムの復権には、どのような背景があるのか。それを知るには、まず平成に先立つ近代日本の精神史を理解しなければならない。

 時代を画した人物として取り上げられているのも、小泉純一郎や庵野秀明(あんのひであき)など平成のキーパーソンはむしろ脇役で、安岡正篤(まさひろ)、山本達雄、小松左京、黛(まゆずみ)敏郎など昭和以前の巨人たちのほうが生き生きと語られている。既に歴史上の人物となっているので、遠慮なくその功罪を描けるというのも理由かもしれないが、「日本会議」創設の要となった音楽家の黛敏郎の心性を描く部分などは特に熱く、その思想内容への賛否は別にして、圧倒された。

 著者の視野は、思想や政治経済はもちろん『ゴジラ』や『日本沈没』などサブカルチャーまで幅広く捉えている。例えば戦後昭和に大衆を引き付けたのは、司馬遼太郎的な歴史小説や、小松左京に代表されるSFだったのに対し、平成を特徴づけるのはホラーとゲームだと著者は指摘する。平成のホラーは因果応報を欠いた不条理な話が多い。またゲームは多くの選択肢を持ち、小説や映画のように唯一の筋を追うのではなく、可能性の中で宙づりにされた世界を、怯(ひる)み、迷いながら進んで行くものだ。それが平成のリアルなのだと著者はいう。

 ポスト平成に「希望」を見いだすために、われわれはまず、そんな「平成のリアル」に向き合う必要があるだろう。

 (幻冬舎新書・972円)

 1963年生まれ。思想史家・音楽評論家。著書『未完のファシズム』など。

◆もう1冊 

 おかべたかし著『くらべる時代-昭和と平成』(東京書籍)。写真・山出高士(やまでたかし)。

中日新聞 東京新聞
2019年1月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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