宮川サトシ×山里亮太・対談 しくじりさえ褒めてくれる、僕らの最愛の人

対談・鼎談

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母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』

著者
宮川 サトシ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784103521617
発売日
2018/12/26
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【宮川サトシ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』刊行記念対談】宮川サトシ×山里亮太/しくじりさえ褒めてくれる、僕らの最愛の人

[文] 新潮社

2014年に刊行され話題となったエッセイ漫画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』の映画化が決定し(安田顕さん主演で2月22日公開予定)、後日談を特別収録した新装版が発売されました。刊行当初から読んでファンだったという山里さんと著者の宮川さんによる、“マザコン対談”。最愛の存在を亡くした後、人はどう生きていけばいいのか――。

宮川サトシさんと南海キャンディーズの山里亮太さん
漫画家の宮川サトシさんと南海キャンディーズの山里亮太さん

やっぱり、遺骨は「食べたい」

宮川 はじめまして。お目にかかれて本当に光栄です。お体は大丈夫ですか? (注:山里さんは年末に虫垂炎に罹り一時休養されていた)

山里 お気遣いありがとうございます。もうすっかり良くなりました。2014年に刊行された当初からこの作品のファンだったので、今日お話しできるのを楽しみにしていました。

宮川 そもそも、僕みたいなマイナーな漫画家の作品をなぜ知って下さったのですか?

山里 理由はシンプルで、たまたま書店で見かけてタイトルに惹かれて買いました。パンチのあるタイトルなのに瞬間的に、「この選択肢、自分の中で全く違和感ないな」と思ったんです。自分では考えてもみなかったけれど、良い選択肢を教えてもらったな、と。うちの母はまだ元気ですが、「その時」が来たら自分も食べたいですもん。

宮川 先行した「あるある」だったんですね。

山里 ええ。無意識に自分の中に存在したとんでもない選択肢が文字になって表れていたわけで、そんな自分自身の気持ちにはぎょっとしましたが。
 拝読したらますます共感することばかりで、漫画の全エピソードに自分の親の具体例が結びつき、ものすごい没入感がありました。もっと詳しく言うと、宮川さんが描く様々な場面や出来事にはうっすらと「のりしろ」が感じられて、その余白に自分の親を当てはめることができたんです。もう涙が止まらなくて、読んでいる途中に新潟の宿を予約して、「旅行いこうよ、母ちゃん!」とすぐ母親に電話をしました。

宮川 嬉しいです。今まで頂いた感想の中で一番嬉しい……。

山里 僕みたいに母親のことがすごく好きな人にはもちろんですが、母親の存在をちょっと遠くに感じている人にとっても、その「余白」に強引にでも自分の親を当てはめていけば、3話目くらいですぐにその存在が愛おしくなるとも思いました。

宮川 ありがとうございます……感無量です。

山里 読んでいる途中よく想像したのは、「その時」がきたら僕は一生メソメソし続けてしまうんだろうな、ということです。先日体調を崩した時も心配した母が2週間泊まり込み看病してくれて助かったのですが、母が作ったおじやに入っていた牡蠣に当たってますます体調を崩してしまったんですね。

宮川 なぜ牡蠣を入れたんだろう(笑)。

山里 虫垂炎だから胃は元気だろうと思ったらしいのですが、病院で点滴を打たれる僕の背中をさすりながら、「私のおじやで亮太が死ぬ!」ってオイオイ泣く母を、「この子はおじやで死ぬような子じゃない!」と親父が慰めて、僕が必死に「大丈夫だから落ち着いて……」と二人を宥めるという出来事があって……。

宮川 ドラマティックだけど妙にダサいですね(笑)。

山里 おじやが主役なので(笑)。で、それでいま思うのは、僕はこのシーンをどのタイミングでこの先思い出すのだろう、と。お母さんの死後、日常に地雷のように潜んでいる母の思い出に涙する宮川さんの姿は、自分の未来とかなり重なるように感じました。僕の場合、胃が痛む度に思い出すことになるので、結構大きな爆弾です。

宮川 ある種の呪いですよね。僕も、母の好きだったトヨエツ(豊川悦司)さんがテレビに出る度に、母のことが頭をよぎります。

山里 そのよぎり方の濃度は変わりましたか?

宮川 いいえ、変わりません。でも自分がどう感じるかは少しずつ変わってきていて、今では「出てきてくれてありがとう、トヨエツ!」と思えるようになりました。悲しさや寂しさが浄化されたんだと思います。

山里 ……すごいことですね。それは未来の僕にとって大きな励みになります。

山里亮太さん
山里亮太さん

「死んでから」を描きたかった

宮川 最近言葉になった気持ちなのですが、母の死から6年が経ち、僕は「母の死を食べた」んだなと感じています。死という現象を食べ、自分のものになったというか……。言い換えると、母親の魂が自分の中に入ったということではなくて、母の死が今の自分を支える重要な礎の一つになったということでしょうか。ヘンな言い方ですが、母親が死ななければ今の僕はないと、はっきり言えるんです。もちろん、死んでくれて良かったという意味ではなくて、あそこでお別れをしたから今の自分の強さがある――それは「存在」とも言えて、すぐ近くにいるわけではないけれど、いるにはいるなって感じがしています。

山里 もう寂しくはありませんか?

宮川 いいえ、それがそうでもない(笑)。1年に1回くらいは、悲しいエピソードだけを思い出して一人でメソメソする時があります。でも、今となってはメソメソできて良かったとも思うんです。

山里 それは今の僕には想像がつかないことだなぁ。

宮川 僕もこんな気持ちになるとは考えもしませんでした。最初の3、4年はすごく辛かったけれど、僕の場合は東京に引っ越したり漫画のデビューが決まったりと、日々の忙しさの方が意外に勝っていきました。でも、その支えになったのは間違いなく、母親との死別なんです。

山里 なるほど。そういう意味で「死を食べた」ということなんですね。
 今のお話もそうですが、宮川さんのこの作品は親との別れをテーマにした世の中に数多ある物語とは違って、その死をどう受け入れるかを見せてくれる「教科書」のように僕には感じられました。

宮川 うわぁ……それはめちゃくちゃ嬉しいです。

山里 僕は初めて、親との別れ方のレシピを見た、と思ったんです。

宮川 ありがとうございます! 死に至るまでの過程は濃密に描かれているのに、亡くなったら急に遺影を持ちながら空を見上げて「母ちゃん頑張るよ」って前を向いて終わる……そんな物語が個人的には納得できなかったのが、この作品を描いた動機の一つです。それに、母を亡くした後の方が自分の中の変化もより大きかったということもあります。僕にとっては、不在の時間の方が描きがいがありました。

山里 作中で宮川さんも描かれていますが、「自分の母親だけは絶対に死なない」と僕も思い込んでいて、「その日」が来たら壊れちゃうかもなと思っているのですが、宮川さんが見せてくれた「死の受け入れ方の具体例」が、いつか僕を必ず助けてくれる――そう確信しました。

宮川サトシさん
宮川サトシさん

とにかく俺を褒めてくれ!

宮川 以前ツイッターでもつぶやかせて頂きましたが、山里さんのエッセイ『天才はあきらめた』が僕は大好きです。この御本やテレビ・ラジオなどの発言から感じている山里さんの尽きない嫉妬心に、僕は共感しか感じていません。僕も妬みが一番の原動力です(笑)。

山里 ありがとうございます! いや~嫉妬心だけでここまでやってきました(笑)。

宮川 でも山里さんの場合、「(相方の)しずちゃんじゃない方」という世間の印象を今では見事に覆していらっしゃいます。今いる場所からの景色って、昔と変わりましたか?

山里 いいえ、全く変わっていません。自分がこの仕事をして自分以外の芸人が存在して「活躍」という単語がある限りは、嫉妬は一生尽きません。断言できます!

宮川 やはりそうですか!

山里 作家の西加奈子さんが、「山里さんは嫉妬を抱きしめて生きている人。普通は嫉妬をするだけで終わるけれど、嫉妬を自分の中にぎゅっと抱きしめてパワーにしている人だから、そのままでいいよ」とおっしゃって下さったことがあり、以来、嫉妬すること自体はあまり気にしなくなりました。

宮川 「嫉妬を抱きしめる」っていい言葉ですね。

山里 ええ。それに、嫉妬をしているうちは天狗になり難いので、努力を惜しまない。自分ができないから嫉妬しているわけですから。

宮川 謙虚になりますよね。

山里 そうなんです。嫉妬相手に勝ったときは猛烈に嬉しいですし。僕の中の勝手な勝負ですが(笑)。

宮川 え、どう勝負しているんですか!?

山里 お恥ずかしい話ですが……例えばバラエティの収録中、自分に話が振られた時、このシチュエーションであの人だったら何と返すだろうと自分の中で瞬間的にシミュレーションするんです。それでいいワードが出た時は、「この言い回しは多分勝てたな」とほくそ笑み、出なかった時は「くっそー!」と悔しがる……そんな毎日ですね。

宮川 その気持ちよくわかります。僕も例えば、ツイッターで無料で読める漫画が10万リツイートされていたら、「10万リツイートと10万部は全然違うからね!」と、聞かれてもいないのに奥さんに説明しています。

山里 わははは! 確かに1回100円だったら、きっとそんなにリツイートされない(笑)。

宮川 そう思うようにしています(笑)。そういえば、山里さんのお母さんは山里さんのことをものすごく褒めますよね。幼少期はもちろん、今のお仕事についても絶対に褒めてくれるというエピソードは猛烈に羨ましかったです。僕が漫画家になる前に母は死んでしまったので。

山里 激甘なんです(笑)。

宮川 それで思い出しましたが、1月4日に初夢をみて、久しぶりに夢に母親が出てきました。そこで僕は、それまでの自分のキャリアでうまくいったことを全部話していたんです。「デビューしたよアニメになったよ今度は映画になるよ」とまくしたてるように……。母親の反応は覚えていませんが、結局僕はいつまでも、母親に一番褒めてもらいたいんです。

山里 自分の仕事の自慢話を飽きずに聞いてくれるのは母親だけだ、と作中でも書かれていましたよね。すごく共感しました。僕も仕事の報告、特に上手くいった仕事のことはよく母親にしています。「すごいねえ」といつも嬉しそうに褒めてくれますし、どんなに小さい記事もいまだにスクラップし、どんなに短い出演でも編集してDVDに保存してくれていて、もう2000枚を超えている……。

宮川 素晴らしい愛情ですね。

山里 激甘ですから(笑)。書籍の帯にも写真が載っていますが、今回の映画では本当に倍賞美津子さんがお母さん役を演じられるのですね。

宮川 そうなんです。漫画の中で兄が「倍賞美津子さんを見ると母を思い出す」と話す場面があるのですが、まさか実現するとは……! 実際お会いしてみたら、母はあんなに綺麗でも彫りが深くもなかったなと思いましたが(笑)。完成したものをすでに観させてもらったのですが、とても素晴らしくて、病室の匂いまでしてくるほど、実際に自分が体験したこととあまりに空気感が似ていました。

山里 お兄さんもご出演されているんですよね?

宮川 エキストラに応募していました、勝手に(笑)。

山里 僕も楽しみに拝見します。

宮川 ぜひぜひ。感想お聞かせ下さい!

新潮社 波
2019年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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