カレー作りの常識が変わる、レシピ本「おひとりさまのスパイスカレー」の衝撃
[レビュアー] 足立謙二(ライター)
ひとりぶんのスパイスカレー シンプルなしくみ
カレーは日本人の国民食。それは時代が令和に変わろうと当面変わることはないでしょう。一方、近年急速に広まり始めているのがスパイスカレーです。その発祥は2000年代初頭の大阪だそうですが、ネットのレシピサイトなどを通じて一気に全国へ広まり、北海道発祥のスープカレーと並ぶ新興勢力に君臨しようという勢いです。
このスパイスカレーを家で手軽に、しかも一人前単位で作れてしまう方法を紹介しているのが、「ひとりぶんのスパイスカレー」というレシピ本です。
著者は、カレー研究家の印度カリー子さん。東京大学大学院で香辛料の研究に従事しながら、「印度カリー子のスパイスショップ」というお店を経営、だれでも簡単に作れるインドカレーの開発、デザインにも携わり、テレビ番組「マツコ会議」など各メディアにも引っ張りだこな、スパイス界の若きカリスマです。
驚異の秘密はグレイビーにあり
基本となるグレイビーソースのつくり方
市販のルーから作るカレーならば、独身の男性でも一度は作ったことがあるでしょう。でも、スパイスカレーを自前で?と聞くと、反射的に難しそうに思えてしまうのではないでしょうか。スパイスから揃えて煮込むなんてハードルが高そうですからね。でも、この本で紹介しているスパイスカレーの作り方は、拍子抜けするほど簡単です。
この本が教えるスパイスカレーの基本は、グレイビーを作ること。通常のカレーのルーに相当するものです。グレイビーとは、本来肉汁がベースのソースという意味ですが、ここでは肉は肉汁は使わず、野菜とスパイスのみで仕上げます。
用意する材料は、玉ねぎ1個、ニンニク1かけら、生姜1かけら、トマト1個、そしてターメリック、コリアンダー、クミンの3種類のスパイスをそれぞれ小さじ1(5ml)ずつ。どのスパイスも、スーパーで手軽に買えるものばかりです。そして炒めるためのサラダ油と、味付けのための塩を小さじ1。すべての材料の分量を「1」で揃えてるのは、わかりやすさを考えたこの本ならではの気配りと言えます。
野菜は細かく刻み、サラダ油を薄く敷いたフライパンで、まずタマネギとニンニクと生姜を、強火で全体が茶色くなるまで炒めます。時間は約10分。いい色がついたら、刻んでおいたトマトを加え(強火のまま)、1分ほど全体と絡めます。トマトがクタッとしたところで、へらで潰しながら、水気がなくなるまで炒めます。水気がなくなったら弱火にし、スパイス3種と塩を加え、1分ほど炒めたらグレイビーは完成です。
そこそこ細かい段取りはありますが、調理時間は野菜の下ごしらえを入れても30分足らずと言ったところでしょうか。
“毎日がカレー曜日”地獄ともおさらば
グレイビーを使ったスパイスカレーのつくり方
この分量で作ったグレイビーは約2人前。本のタイトルにある「ひとりぶん」の2回分です。ルーから作るカレーだと、だいたい4人前分以上をまとめて作るのが普通のはず。一人暮らしでこれをやってしまうと、そのあと4夜連続カレーという、あまりありがたくない毎日を過ごすことになりかねません。
その点、この本での作り方なら、そんなありがたみが薄いカレー祭りを開催しなくても済みます。1度グレイビーを作ったら冷蔵保存で1週間ほど保つので、慌てて消費しなくても大丈夫です。
グレイビーさえ作れてしまえば、あとは具に肉を選ぼうが季節の野菜を選ぼうが自由。本書ではゆで卵を使ったタマゴカレーや、鯖缶を丸々使うサバカレーなど冷蔵庫のありモノで手軽に作れてしまう個性的なカレーレシピが多数登場しています。
また、ベースとなる水分も、ただの水だけでなく牛乳やヨーグルト、ココナッツミルクなどを使う方法も紹介されており、この一冊だけでカレーのバリエーションは格段に広がるはずです。
そしてもちろん、本書には本格的にホールスパイスを使ったレシピもしっかり掲載されているので、簡単カレーに味をしめたら上級編にチャレンジしてみるのもいいでしょう。
塩は“第4のスパイス”
一方、印度カレー子さんが本書の中で強く訴えるのは、塩加減の大切さです。ここで使っている3つのスパイスの役割は基本的に彩りと香り。味をつかさどるのはあくまで塩であり、それはカレーにとっての命とまで言っています。
普通のカレーを作ったことがある方でも、いざ食べてみたら味が薄かったという経験があるのではないでしょうか。そうならないために、仕上げの直前に必ず味見をし、塩加減を調整するよう強調しています。塩は第4のスパイスと言っても過言ではないということでしょう。
そんな塩の使い方に気を配りつつ、「カレーはレトルトでいいかな」と諦めていた一人暮らしの男子諸君も、超簡単なのに一つ上をいくスパイスカレー作りに、一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。