松井美緒さん、stay homeの楽しみ方

インタビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

松井美緒さん、stay homeの楽しみ方

[文] 世界文化社

松井美緒さん

 ブログやインスタグラムで日々の暮らしを発信する松井美緒さん。自然体で生き生きとした人柄に加え、家族のためのお料理アイディアや人が集うときのおもてなし術は、“真似したくなる”ものばかりでファンも多い。妻として(夫は埼玉西武ライオンズ2軍監督・松井稼頭夫さん)、20歳の娘と12歳の息子の母として、さらに仕事を持つ40代の女性として、日々忙しくすごす松井さんはいま、コロナ禍によるstay homeを経て、これまで以上に家族との時間、自分ひとりの時間を大切にして過ごしているという。そのリアルなフードライフを公開した松井さん2冊目のレシピ本『松井美緒のおいしい手仕事』(世界文化社)の刊行を記念して、お話を聞いた。

――2019年に、初めての著書『松井家のおもてなしごはん』を出されましたね。

SNSでご紹介したおもてなしアイディアが、多くの方から反響をいただき、その声に押されて1冊にまとめました。もともと、人に喜んでいただくのが大好きなんです。お友達の顔を思い浮かべながら、「楽しんでもらえるかな」「こうすると気分が上がるかな」と想像しながら、前日からお料理を仕込み、器やグラスを選んで準備万端に。乾杯のシャンパンに金箔を入れるだけで歓声が上がったり、ローストしたかたまりのお肉をテーブルに出して目の前で切り分けてライブ感を出したり。実は、そんなに難しいことはしていません。でもちょっとした工夫で、手がかかっているように見えるんですよ。

――2冊目の著書『松井美緒のおいしい手仕事』は、雰囲気がガラリと変わりました。

どちらも本当の私ですが、1冊目はハレの日の松井美緒、2冊目は普段の松井美緒かな。1冊目は特別な日の食卓を集めてお伝えしましたが、当時も、普段の日は家族のごはんを作り、子どもに「勉強しなさい!」と言い、お掃除をする、そんな当たり前の生活をしていたんですよ!

――今年は、思いもよらないコロナウイルスの感染拡大で、stay homeを余儀なくされました。

そうですね。子どもたちは休校で家にずっといて、外出も自由にできない。人とも合えない。お友達を誘っておもてなしディナーするなんて、とんでもない! そんな状況になって、これまで以上におうち時間を楽しむようになりました。今回の本では、そのリアルライフを、私の写真とレシピでご紹介しています。気持ちは「動」より「静」。1冊目で表現したホームパーティーの高揚感や華やかさとは真逆で、2冊目は静かで穏やかな雰囲気を伝えられたらと思います。

mioだれ&mioつゆ

――stay home期間中、ごはん作りで大変だったことは何ですか。

毎日3食作ること! 家に子どもがいる生活が1か月以上続いたので、とても大変でした。そんなときにごはん作りを助けてくれたのが、便利なたれやつゆでした。これだけで味が決まり、さらに調味料をプラスすると味に変化がつくので、さまざまに応用できます。ぜひおすすめです。

――松井さんは自家製されているんですね。

はい。わが家の冷蔵庫に必ずあるのは「mioだれ」と「mioつゆ」の2つ。「mioだれ」はもともとは子どもの学校行事で忙しいとき、1週間のごはん作りを乗りきれるように考えたものです。これだけで、家族みんなが大好きなプルコギのたれになるよう、ちょっと甘くてにんにくの香り漂う配合にしたら、他のお料理にも大活躍しています。「mioつゆ」は、いわゆる2倍濃縮のめんつゆです。しいたけや昆布、かつおぶしを使って手作りしたナチュラルな味わいで、つゆに使った材料でふりかけを作って食べつくすから、無駄がありません。忙しいときは市販のめんつゆを使うこともありますよ。どちらでもいいと思います。お料理は、自由に楽しむことが大切だと思っています。

――ほかに、世の中のお母さんたちにおすすめしたいアイディアはありますか。

冷凍ストックですね。私は料理そのものではなくて、ミートソースやハンバーグのたね、パングラタンのソースなど、料理のベースになるものを、一回に食べる2~3倍量をまとめて作って冷凍します。すぐに使えて、さまざまな料理に応用がきいて便利です。

――以前から冷凍ストックをしていたんですか?

そうなんです。でもそれが、stay homeにとても役立ちました。ある日、スーパーマーケットに行ったら、なんと、お肉が売り切れ。でもお肉が食べたいという子どもたちのために、冷凍しておいたハンバーグのたねを解凍して、野菜と一緒に炒めたら、とても喜んでくれました。ハンバーグのたねは、本でもご紹介した「お肉ごろごろペンネ」や「マーボー春雨」にも応用できますよ。こんなふうに困ったときや、忙しくて料理に手をかけられないとき、そして毎日お買い物に行けないときにも重宝します。

ハンバーグのたね

――冷凍庫の中が美しく整理されていて驚きました。

実は、冷凍するにもコツがあるんです。ひとつは、ジッパー付き保存袋に入れ、空気を抜きながら平らに薄くして袋の口を閉じること。次に、金属製のバットに平らに重ね、冷凍庫に入れること。この2つで、驚くほど短時間で凍らせることができます。3つ目は、凍った袋を立てて保存すること。冷凍庫のスペースを無駄にせず、また美しく収納することができます。袋の上側に、中身と仕込んだ日を書いたフセンを貼っておくと、ベストです!

――stay homeで始めたことがあるそうですね。

ひとつは家庭菜園。菜園といっても、苗を買ってきて鉢植えにした、簡単野菜作りです。ミニトマト、きゅうり、なす、ゴーヤ、万願寺唐辛子、あとはいろんな種類のハーブ。レモンだけは、3年前に鉢植えにしたものをずっと育てています。ちょうど春から夏に向かうタイミングでしたので、苗がぐんぐん成長し、実をつけ、ふっくら育って、色も変わっていく様子を毎日眺めていて、それだけで癒されました。

――もぎたての野菜や摘みたてのハーブを料理にするなんて、贅沢です。

自分が育てたとびきり新鮮な野菜を食べられるのは、本当に幸せです。料理をしていて、「あ、ここにちょっとミントを乗せるといいな」と思ったとき、子どもに「ちょっと摘んできてー」とお手伝いを頼むと、まるで自分も料理に参加した気持ちになるようで、食事の時間が楽しくなります。さらに、摘みたての野菜やハーブの香りはセラピー効果があって、心も穏やかになりますよ。

――ほかにありますか?

ぬか漬けに初トライしました。スーパーマーケットに行ったら、ちょっと大きなお弁当箱ぐらいのぬか漬けキットを見つけて、「やってみようかな」ぐらいの気軽な気持ちで始めたら、これも楽しくて。いまでは、ご飯のお供だけでなく、晩ごはんを作りながら、お酒と一緒にポリポリ食べて楽しんでいます。

ポテトグラタン

――陶芸も始められたとか。

もともと器好きで、作家さんの個展に行っては好きなものを少しずつ集めていました。また母が趣味で陶芸をしていて、わが家にも母が作った器がたくさんあります。そんな影響もあって、12歳の息子と一緒に陶芸を始めました。成形した素地の表面にフォークで筋をつけて表情を出したり、手で作るがゆえのゆがみがあったり、2つとして同じものがないおもしろさにすっかり魅了されています。

――ペットの亀にさわれるようになったそうですね。

数年前、娘から陸亀が飼いたいとリクエストがあって、それ以来うちにいます。私はちょっと怖くて、一度もさわれなかったんですが、家にいる時間が長くて、思い切って庭に出して散歩させたら、かわいくてかわいくて、愛情がぐっと深まりました。

――今年は松井さんにとって、素晴らしい出会いがあったそうですね。

今年2月、生まれて初めてひとり旅をしました。向かったのは奄美大島の隣にある喜界島。健康で長寿のかたがたくさん暮らしている島です。足を踏み入れたときに感じた母なる大地のやさしさ、島全体がパワースポットであると感じられる空気や風や土。そして何より島の皆さんの笑顔。一瞬にして島のとりこになって、計り知れないパワーをいただきました。

――そこで食材にも出会われたと。

まず、この島のお野菜に驚きました。ミネラル豊富な大地で育った野菜は生き生きして、体が元気になるようでした。でも東京に住む私には、毎日食べることができません。そこで、偶然出会った喜界島薬草農園の皆さまと一緒に長命草のお茶を作ることにしました。ブレンドせず、長命草100%。しかも茎を抜いて葉っぱだけで作っているから、ピュアで上品な味わいに仕上がり、気に入って毎日飲んでいます。

食卓

――ご自身のブランド「mix & mingle」では、エプロンやランチョンマットなど、暮らしを豊かにするものを発表されてきました。

もともとは5年前、2人の子どもが学校生活に慣れてきた頃、自分の人生について考えるようになりました。結婚して15年間、専業主婦だったいまの私に何ができるか、何を伝えることができるのか……。毎日料理を作り続けてきた私にとって大切な場所、食卓から発信したいと、エプロンを作ることにしました。自分でデザインし、型紙を作り、布を裁断して家庭用のミシンで縫い、アイロン掛けをし、梱包まで、全部自分でしていたんです。いまは、愛情を込めて縫ってくださる茨城県にある森田屋縫製さんにお願いしています。エプロンの素材は、使えば使うほど風合いを増すリネン。日常が楽しめるように、暮らしが彩り豊かになりますよう願いを込めました。同じ布で、ランチョンマットも作っています。

――このたびラインナップにエコバッグが加わったそうですね。

2020年の7月から、スーパーやコンビニのレジ袋が有料化されました。環境のことも考えながら、楽しく過ごせたらと思って、新しい日常に大切なエコバッグをデザインしました。コンセプトは、シンプルで、使うのが楽しくて、私の作ったエプロンとどこかリンクするもの。バッグと紐が別々になっていて、バッグはどんな色とも相性のよいベージュ、紐は気分やお洋服に合わせて色を変えて楽しめるよう6色にしました。長さを変えることで、肩掛けにも、斜め掛けにすることもできますよ。

――この本では、新聞で作る再生バッグの作り方まで紹介されていますね。

新聞バッグとの出会いは、2016年。宮城県・松島で偶然入ったショップでした。その後、東北・みやぎ復興マラソンに参加したとき、ご縁があって新聞バッグの作り手にお会いし、作り方を教えていただくことができました。その作り手とは、東日本大震災で多くのものを失った被災者のかたがた。「失ったものは多かったけれど、“まだ手があるじゃないか”」という思いで、経済復興に立ち上がったそうです。捨てられる運命の新聞を、手仕事で再生させ、そこから人と人がまたつながり、笑顔が生まれる。「美緒さんに元気をもらう」と言ってくださるかたも多いのですが、私こそ皆様から元気をもらっているのです。

――料理、野菜作り、陶芸、デザイン、新聞バッグ。すべて手が作り出すもの。デジタルなこの時代だからこそ、人間の手が作り出すものは貴重ですね。

「”手仕事“のぬくもりは唯一無二の宝」――そう教えてくれたのは、新潟で一緒に暮らしていた祖父母です。ですから私も、暮らしを手作りすることが大好きです。この本では、食を通して、無二の幸せがいつもそばにあると感じていただけることを伝えたいと思いました。今年は、予想すらしていなかったstay homeで生活が一変しました。でもこれを機に始めたこともたくさんあって、わが家の食卓を豊かにしてくれました。これらの思いを込めて、本のタイトルに「おいしい手仕事」というフレーズを入れました。私の日々の“手仕事”が、少しでも皆さまの暮らしのお役に立てることを願っています。

世界文化社
2020年10月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク