令和の相撲再入門

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令和の相撲再入門

[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)

 若貴ブームの頃は相撲をよく見ていたが最近はさっぱり、大関は今何人いたっけ?というような方は、筆者も含めて少なくないことだろう。西尾克洋『スポーツとしての相撲論』は、そんなあなたに捧げる現代大相撲の再入門書だ。

「立ち合いの変化はなぜ嫌われるか」「白鵬はなぜあれほど強いのか」「力士の給与はいくら?」「貴の乱とは結局何だったのか」などなど、三〇の質問に対して著者が答える形式で本書は進んでいく。過度にジャーナリスティックにならず、温かいファン目線と冷静なデータ分析に基づいた回答には好感が持てる。例えば白鵬に迫るだけの力士が出てこない理由としては、学生相撲の競技人口の少なさが挙げられている。東京でさえ、団体戦のチームが組める高校は五校しかないというから、状況はなかなか深刻だ。また、部屋に一度入門すると、原則として移籍は許されず、指導方針が合わない場合は引退の選択肢しかなくなるという指摘もなされている。相撲の伝統を守ることも大切だが、改めるべきは改めなければならないだろう。

 話題は幕下など下位の力士の人生や、取り組みの合間時間の楽しみ方にまで及ぶ。素人にもわかりやすく、興味を持てるよう伝えられる著者のような人材は、人気低迷にあえぐ相撲界にとっても貴重だろう。この本ではあまり深く触れられていないが、コロナ禍と相撲界など、さらに掘り下げてほしいテーマも多い。著者のさらなる活躍を願う。

新潮社 週刊新潮
2021年7月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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