プロゴルファー・服部道子さんに聞いた ゴルフと人生、オリンピック、現役選手のこと

インタビュー

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好転力

『好転力』

著者
服部 道子 [著]
出版社
株式会社 世界文化社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784418212101
発売日
2021/07/19
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

プロゴルファー・服部道子さんに聞いた ゴルフと人生、オリンピック、現役選手のこと

[文] 世界文化社


16歳(1984年)、全米女子アマ選手権にて優勝したときの服部道子さん

 1984年、日本女子アマ選手権を史上最年少で制覇し、1985年には全米女子アマを史上最年少で日本人としては初の優勝を達成したプロゴルファーの服部道子さん。プロに転向後は、1998年に年間5勝を挙げて賞金女王に輝き、国内外ともに活躍した。2019年6月には2020東京オリンピックゴルフ日本代表女子コーチに就任し、後進を育成している。

 その服部さんが、ゴルフから学んだ人生哲学を綴った著書『好転力』(世界文化社)を刊行。本作の刊行を記念しインタビューを行った。ゴルフから学んだこと、現在のゴルフ界、オリンピック開催について話を伺った。

本を書かれるきっかけは何だったのでしょうか?

(本を書かないかと)誘われたからです(笑)。でも本当に誘って頂かなかったら、自分から本を出そうとは思わなかったですし、現役を引退してすぐのタイミングだとゴルフばかりの視点になってしまったのではないか、と思います(笑)。結婚して、子供も生まれ、現役時代とは違った葛藤のようなものもあり、それから再び(ゴルフの)仕事に戻ったことで、現役時代とは違った目線でゴルフの仕事に携わったことで新しい発見や気づきもありました。そういう意味ではいいタイミングでの出版だったのかな、と思っています。

それに加えて現在は女子ゴルフが大盛況ですよね。自分もジュニア時代からゴルフをやってきて、いろんな時代を選手として過ごしてきたことで経験したその時々の思いとか、当時の自分に言いたいこととかを、今の後輩に対して、ちょっと先を行く先輩として何か伝えられるのでは、と思うところもあり、今回の出版になりました。あと東京オリンピックのタイミングというのもあると思います。(※服部氏はゴルフ日本代表女子コーチとして参加)


ゴルフ日本代表ヘッドコーチ丸山茂樹さんと。

初めての著作ということですが、どんなことを意識して書かれましたか?

とにかく読みやすくしたいと思っていました。私自身大の読者家なので、最後までに読んでもらえるような本にしたかったですね。それからゴルフをする人やゴルフ好きな人だけではなく、そうではない多くの人にも手に取ってもらえるような本にしたかったです。

実際に執筆していて難しかったのはどんなことですか?

とにかく色々と難しかったです(笑)。ゴルファーとしての自分の「当たり前」と普通の方の「当たり前」は違うと思いますし、私が面白いと思うことと皆さんが興味をもたれていることも違うと感じる部分もあって……。

ゴルフを通じての経験が、「読んでよかった」とか「よし明日から頑張ろう」という気になって頂ける本にしたかったので、分かりやすい共通点を書きたかったんですけど、なかなかその落としどころが難しかったですね。

執筆していてご自身で何か気付いたことなどありますか?

私は過去を振り返らない性格で、どちらかと言えば常に前を見たいタイプなんですね。だけど今回改めてこういう書籍を書く経験をさせてもらって、本当に多くの人に支えてもらって、いろんな経験、出会い、体験が出来たんだな、というのは改めて思いましたね。そこにはとても感謝しています。

小学4年生でゴルフを始めてからこれまで振り返る暇もなく、ずっと走ってきたようなイメージなので、一度自分の過去をこうした形で振り返って整理できたというのはこれからの将来に対してもものすごくプラスになったな、と思います。

タイトルの「好転力」はどういった想いを込めて付けられましたか?

ゴルフは「完璧」ということがほとんどないスポーツ。思い通りにいかないことばかりです。でもそこから自分の気の持ちようでどうにでもなるものだと思っています。たぶんそれは人生も同じことですよね。

先の見えない時代と言われて久しいですが、今はコロナ禍も加わってもっと不安定になっているのではないでしょうか。ゴルフは自然と自分との戦いで、どんな状況でも自分ですべて決断しなければなりません。たとえミスをしても、そこをどうリカバリーするのか、瞬時に判断しなければなりません。状況を好転する力、それを「好転力」と呼ぶことにしました。

プレー中はキャディーさんに相談はできますが、最終的にはすべて自分ひとりで決めなければなりません。好転力を呼び込めるのはあくまで自分自身。失敗も決して悪いことではなくて、いかにそこから立ち上がるか、そこで学んだことをいかに今後に生かすか、ということが問われるのがゴルフというスポーツです。そうしたプレーを通じて学んだことをまとめましたので、読者の方とは立場も仕事も違うとは思いますが、少しでもお役に立ったりエールになったらいいなぁと思っています。

強いて言うなら、どういう人に読んでもらいたいというのはありますか?

どういう人というのはないのですが、この本で書いている「心持ち」の部分はどの仕事でも共通すると思うんです。ですのでこれから何かを頑張っていこうという人や、いま何をやってもうまくいかないと思っている人など幅広い人に読んでもらえたらな、と思っています。

先ほど女子ゴルフ界が盛況というお話もありましたが、若い頃から活躍された(16歳で史上初の全米女子アマ優勝など)服部さんは現在の女子ゴルフ界をどうご覧になっていますか?

正直大変だなぁ(笑)というのは感じます。というのも今はSNSなどの普及で皆が一喜一憂しやすい世の中ですよね。(SNSなどのおかげで)全部が見えるというのはプラスにもなるし、見えすぎるのが辛くなる時もあると思うんです。ただ、時代は違うのですが、心の持ちようで、どうにでも状況を好転できるというのは今も昔も変わらないのではないかと思っています。

執筆期間はコロナ禍でしたが、それが内容に影響しましたか?

そうですね。東日本大震災の時もそうでしたが、こうした事態になると、より一層自分自身と向き合ったりしますよね。自分にやれることは限られてしまうのですが、そんな状況でも自分の目とか気持ちを肥やしていくというのは、こういう時期だからこそできるのかな、とも思います。そうでないと日常はとかく仕事に追われて過ごしてしまいがちです。これまで自分自身と向き合う時間も少なかったと思いますし、そうした自分自身と向き合った時間をこれからの土台にしていきたいな、と思います。


服部道子さん、初の著書『好転力』を手に。

2020年はスポーツ競技が思うようにできなかった一年でした。改めて服部さんから見てスポーツの持つ役割ってなんだと思いますか?

やっぱりなんだかんだ言っても「パワー」がもらえる存在だと思います。試合までどれだけ苦労というか努力できたか、というのはその舞台に立った者にしかわかりませんし、そうした者同士が繰り広げる本気の勝負や、そこから生まれる感動というのは「作られたモノ」では難しいのではないかな、と思っています。

紆余曲折あったオリンピックも開催されそうですが、服部さんはゴルフ日本代表女子コーチとしても参加されます。どんなオリンピックにしたいですか?

そうですね、ここまで賛否両論がある中で開催するわけですから、皆が「前を向く」きっかけになるオリンピックにしたいですね。「やってよかった」「力をもらった」って思ってもらいたいですし、「日本でやれてよかった」と振り返ってもらえるよう私も微力ながら頑張りたいなと思っています。もう次はいつ日本で開催できるかわかりませんし、今もう「やるしかない」って感じです。

本書には56のエピソードが書かれていますが、あえて1つ選ぶとしたら、ご自分の中で最も印象に残っているものは何ですか?

アメリカの大学に留学していた頃の話をまとめたエピソード32の「やっぱり最後はハートとハート」ですかね。パット・ワイスさんという方とのエピソードです。

どうしてそのエピソードを選んだのですか?

やっぱり「心と心」というのは一番大切な部分かな、と思います。言語が上手にできていない人でも行動や態度だけでもつながっていけると思うし、やっぱり最後は人と人の心のつながり、目には見えないですが、そこが一番の要となって人を動かしていくのだな、ということに気付いたエピソードでしたので。

服部さんがアメリカの大学に留学された頃と、SNSが発達した現在では、人と人の関係性も少し変わっていますよね。先ほどもお話されていましたがSNSでアスリートが非難されたり応援されたりとコミュニケーションの形が違う現在において、何が大事だと思われますか?

うーーーん、繰り返しになりますが、やはり自分自身の心の持ち方ですかね。自分の中になにかブレない部分があれば多少は受け流せると思うんです。逆にそういうものがなく、自分自身を俯瞰する余裕がないと、そういうものに流され、余計にもっと傷ついてしまうのではないでしょうか。自分のことだけど、どこか俯瞰して見られる感じというか、そういう心の持ち方がこれからは大切なのかな、と思いますね。

この「好転力」には、そのヒントになるようなことが書かれているのですね?

はい、そんなこともいくつか入れたつもりです。いくつ参考になるかはわかりませんが(笑)

世界文化社
2021年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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