自分を励ましたい日に読む浮かれた句会の楽しみ

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東京マッハ

『東京マッハ』

著者
東京マッハ [著]/千野帽子 [著]/長嶋有 [著]/堀本裕樹 [著]/米光一成 [著]
出版社
晶文社
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784794972873
発売日
2021/12/07
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

自分を励ましたい日に読む浮かれた句会の楽しみ

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 句会実況中継本には名作が多い。わたしが最初にその魅力に気づいたのは、小林恭二『俳句という遊び 句会の空間』(岩波新書)だった。とくに変わったところがなく、ごくふつうに運ばれる句会の雰囲気が感じられ、しかしそれでもなお句会というのは一種の「殺し合い」なのだと思った。だから心から互いを認め合った者同士でおこなう、エロティックなものなのだとも感じた。

 この本に収録された句会はもっとずっと現代的で刺激的だ。なにしろ観衆がいるし、句会参加者は壇上で横一列に並んでいる。ちょっと酒が入ったりもして和気あいあいだが、「逆選」システムを採用していて、感想戦が盛り上がる。句会は、各自が複数作った句を作者がわからないようにシャッフルし、参加者それぞれがよいと思った句に投票する。「逆選」はそれに加えてマイナス点をつける句も選ぶということで、マイナスのニュアンスは人により場合によって「嫌い」「好きだけどこれはナシだろう」「ちょっと文句をつけたい」などいろいろだ。観衆からの評価は参加者どうしの評価とまた少し違ったり、見どころの多い、楽しい実況中継になっている。ゲスト参加者も池田澄子、川上弘美、谷川俊太郎、最果タヒなど豪華。そして各句会のパートに入る前に読者自身が選句・採点できるよう、句の一覧表がついている。これがうれしい。

 一冊を通じ、話し声が元気に響いている。〈お前が喋っていいとは、まだ、俺は許可してない〉〈わかった。素直になる。好き。いい〉〈あの人は俺に点くれない人というふうに覚えます〉。果ては〈さっきの(中略)句を俺にくれみたいなことを言っていたけど、買う? いくらで買う?〉と言われて800円の値をつけたりする浮かれた感じ。それが読んでいるわたしにもうつってきてフフフと笑いながら読んだ。春を待ちわび、自分を励ましたい日に読むといい本です。

新潮社 週刊新潮
2022年2月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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