守備範囲の広さ、懐の深さに改めて感心する8篇

レビュー

8
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爆発物処理班の遭遇したスピン

『爆発物処理班の遭遇したスピン』

著者
佐藤 究 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065279526
発売日
2022/06/29
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

守備範囲の広さ、懐の深さに改めて感心する8篇

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 敵に追われ日本に流れ着いたメキシコの麻薬王の暗躍劇を描いて直木賞、山本周五郎賞に輝いた長篇『テスカトリポカ』。その暴力神話の迫力はまさに圧倒的だったが、著者の佐藤究がどんな作家なのかを知るうえではまずこちらからお奨めしたくなるのが、すなわち本書である。

 全八篇収録だが、冒頭の表題作は鹿児島市の小学校へ爆破予告が入り県警の爆発物処理班が出動、爆弾は簡単に処理出来るかに見えたが、何故か爆発。その収拾もつかぬうち、同市内のホテルで第二の事件発生。しかもそれは沖縄の米軍基地に仕掛けられた爆弾と連動していた。

 表題のスピンとは量子力学上の電子運動のことで、第二の爆弾と沖縄の爆弾は量子力学を応用したもの。環境テロ組織の犯行の意図は……。

 何とSFプロパー系のサスペンスではないかと驚くなかれ。続く「ジェリーウォーカー」の主人公は映画の怪物クリーチャーのCGクリエイター。オーストラリア人の彼は独創的な造形で世界にその名をとどろかせていたが、実は友人と組んで人里離れた自宅で密かに実物のキメラ作りに勤しんでいたのだった。

 というわけで、こちらもSFというか、ディーン・クーンツばりのクロスジャンル・ホラー。『テスカトリポカ』の著者のイメージはこの二篇でがらりと変わるが、安心されよ。新宿やくざの試練を活写した「シヴィル・ライツ」、シリアルキラーのアートに執着するコレクターの悪夢を描いた「スマイルヘッズ」、退職刑事を取材するライターの受難劇「ボイルド・オクトパス」、そして川崎で更生を図る少年が猟奇事件に直面する「くぎ」と、そっち系もちゃんと用意されている。

 もうひとつ、著者の同郷の作家・夢野久作や恩人!? 江戸川乱歩にオマージュを捧げた「猿人マグラ」と「九三式」にも注目。面白いのはもちろん、著者の守備範囲の広さ、懐の深さに改めて感心させられる。

新潮社 週刊新潮
2022年7月21日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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