『日本の星』
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星や星座の和名約700種を蒐集 土地柄が面白い
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「星座」です
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星を愛し、天文に関する随筆を数多く書いた野尻抱影。冥王星という和名を考案したことでも知られている。
彼が成したもっとも大きな仕事は、星や星座の和名を蒐集したことだろう。30年かけて集めた約700種をまとめたのが『日本の星 星の方言集』だ。
私が星の方言に興味を持ったのは、作家の島尾敏雄が、のちに妻となるミホから戦時中に受け取った恋文に、見たことのない星座の名が出てきたことからだ。
当時、島尾は海軍特攻隊の隊長として奄美群島の加計呂麻島に赴任しており、ミホは島の教師だった。恋仲になった二人は、深夜の浜辺で逢引をしていた。
〈南の島の磯辺に/羽子板星の光る頃/私の好きなあのひとは/今宵も必ず来るであろう〉
ここに出てくる「羽子板星」が昴だということを教えてくれたのが、抱影のこの本だった。昴はおうし座の星団プレアデスの和名で、「枕草子」にも出てくる古い呼び名だが、このほかに日本各地で様々に名づけられている。六連星、一升星、鈴生り星、相談星、ゴジャゴジャボシ……。
名前そのものも楽しいが、なぜその地域でそう呼ばれるようになったのかの解説がまた興味深く、「星の民俗学者」と呼ばれた抱影の面目躍如といったところだ。
アイヌの星の呼び名も紹介されている。昴は「アルワン・ノチウ」(なまけ星)というそうで、同じ星を見てまったく違う方向に想像力を働かせているのが面白い。