<書評>『夢の砦(とりで) 二人でつくった雑誌「話の特集」』矢崎泰久、和田誠 著

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夢の砦

『夢の砦』

著者
和田誠 [著]/矢崎泰久 [著]
出版社
ハモニカブックス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784907349271
発売日
2022/10/10
価格
2,310円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『夢の砦(とりで) 二人でつくった雑誌「話の特集」』矢崎泰久、和田誠 著

[レビュアー] 岡崎武志

◆なりは小さいが個性派ぞろい

 かつて「A5判」(タテ約二一センチ)の小さな雑誌が出版界に活気を与えた時代があった。『面白半分』『ビックリハウス』『本の雑誌』『広告批評』『噂の真相』などが一九七〇年代に創刊。いずれも個性的で、その象徴たる存在が『話の特集』だ。創刊号(一九六五年)の表紙は横尾忠則。ここに集結したのが立木義浩、篠山紀信、宇野亞喜良、寺山修司、栗田勇、のち谷川俊太郎、永六輔など当時の新しい才能だ。作ったのは矢崎泰久と和田誠。『夢の砦』はその傑作選であり、矢崎が怒濤の歴史を振り返っている。

 編集長は矢崎泰久。新聞記者を辞め、新雑誌を創刊させる際、アートディレクターとして声をかけたのが和田誠。和田は二十九歳、矢崎は三十二歳。当時、広告会社社員の和田は、ノーギャラでいいから編集に口を出させろという提案で船出した。反権力の矢崎と、スマートな遊び心を押し出す和田により世にも面白い雑誌が生まれた。

 傑作選には高倉健、吉永小百合、向田邦子等へのインタビューほか各種記事、篠山、立木、横尾、和田、矢崎による「創刊二〇年記念座談会」を収めるが主役は和田誠だ。アートディレクションにとどまらず、イラスト、マンガ、ショートショート、対談、そして名著『倫敦巴里(ロンドンパリ)』にまとまる斬新なパロディで活躍した。すでに権威の『暮しの手帖』をからかった『殺しの手帖』、ノーベル賞を受賞したばかりの川端康成『雪国』をさまざまな書き手の文体でなぞる離れ業はシリーズ化された。あの有名な冒頭が「トンネルを抜けると雪国だった。/この書き方は正確ではない。トンネルを抜けなくたって、雪国なのである」(山口瞳)、「トンネルを出ましたねぇ。長いですねぇ。長いトンネルですねぇ」(淀川長治)とあきれるほど上手い。もちろん洒脱な似顔絵つき。

 一九九五年に休刊。「日本が危険な流れに吞み込まれる気配のする現在、この雑誌が発行されていない空白を痛感するのだ」と書いた和田誠は二〇一九年に逝去した。二人が作った自由な「夢の砦」は崩れ去り、いまや「兵(つわもの)どもが夢の跡」である。

(ハモニカブックス・2310円)

<矢崎> 1933年生まれ。ジャーナリスト。

<和田> 1936〜2019年。イラストレーター。

◆もう1冊

和田誠著『装丁物語』(中公文庫)。星新一から村上春樹までの本づくり。

中日新聞 東京新聞
2022年12月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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