『マンガ ぼけ日和』
- 著者
- 矢部 太郎 [イラスト]/長谷川 嘉哉 [企画・原案]
- 出版社
- かんき出版
- ジャンル
- 芸術・生活/コミックス・劇画
- ISBN
- 9784761276515
- 発売日
- 2023/02/08
- 価格
- 1,100円(税込)
書籍情報:openBD
誰も教えてくれなかった患者・家族の心の手引き
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
認知症専門医が、自身の診療経験をもとに、認知症の進行具合を春夏秋冬の4段階に分け、「その時何が起こるのか」「どうすれば良いのか」を、多数の患者・家族のエピソードを交えて書いたエッセイ『ボケ日和』。本書はそのマンガ化である。
エッセイでイラストを担当していた著者による描き下ろし。ほのぼのした画風は本誌連載「プレゼントと僕」でもおなじみだが、本書では空気感はそのまま、自分ではない人物を主人公にして物語を紡いでいる。
認知症医である「先生」を軸に、登場する数組の家族。「おばあさん」の異変に気付き始めた「おじいさん」。怒りっぽく手が付けられなくなった「お父さん」に困り果てる「息子さん」。迷惑をかけるのが怖くて、病気を隠そうとする「お義母さん」と、心配する「お嫁さん」。春の章では、認知症の入り口に立つ各人を描き、夏は、段々と症状が進んでゆくさま、秋はそれに疲れてゆく家族、冬では、施設や自宅で最期を迎えるまでが綴られる。
独特ののんびりした余白の多い作風に、介護のリアルな生々しさはない。だが、その余白がかえって、認知症というものを抱えた当事者たちの、心の内の辛さ切なさを浮き彫りにする。
そんな彼らに、要所要所で温かく的確にアドバイスを与える主人公。「お義母さん」に泥棒呼ばわりされ落ち込む「お嫁さん」に「そう言われるのは決まって一番面倒を見ている人なんです」「つまり、『お金盗った』は介護の勲章なのです」とメダルを授与。思わず涙ぐむ「お嫁さん」。
今後も、泥棒呼ばわりされる状況は変わらないかもしれない。しかし、この寄り添いのひとことをかけられた彼女は、少し心に余裕を持てるようになる。こうした気持ちの変化こそ、介護に直面している人々が最も必要としているものなのではないだろうか。
認知症・介護の体験談やハウツーを書いた本は数多あるが、メンタル面での向き合い方にフォーカスしたものは意外と少ない。高齢化社会が進むにつれ、誰もが当事者になる可能性がある認知症。いざ対峙となった時の「心のコツ」を教えてくれる、支えの一冊。