70年前の京都スナップ写真で観光気分のタイムトラベル
[レビュアー] 都築響一(編集者)
今年4月2日まで京都文化博物館で開催された展覧会「続・戦後京都の『色』はアメリカにあった!」にあわせて出版されたのが岩波新書の『占領期カラー写真を読む オキュパイド・ジャパンの色』と、図版編ともいうべきこの一冊。
終戦直後から約7年間にわたった占領期、関西方面の占領軍司令部は京都に置かれる。和歌山に上陸した占領軍の部隊が京都に進駐したのは1945年9月25日のことだった。
日本が“オキュパイド・ジャパン”だった時代、日本側の記録はほとんどモノクロだったが、アメリカは大量のカラーフィルムを持ち込んでいた。そのうち占領軍が撮影した公式写真はよく見るが、この展覧会と書籍がユニークなのは、米軍関係者が京都で撮影した私的なスナップを集めたこと。アメリカの個人宅に保管されていたスライドをネットオークションで買い集めたり、大学のライブラリーを探したりして発掘。それをデジタル化してきれいに補正し、さらに写された場所を特定していく……それはスリリングな知的冒険でもあった。
ドキュメンタリー映画などで流行りのAIによるカラー化ではなく、70年前に撮られた京都の色。街の様子はもちろんいまとちがうけれど、けっこう一緒だなと思える場所もたくさんある。
そして軍属のカメラマンによる公式記録ではないからこそ、肩肘張らずに写し取れた街と人間が織りなす空気感。焼け野原の東京からやってきて、空襲による破壊をほぼまぬがれて戦争前そのままの景観にいきなり足を踏み入れた兵士たちの興奮。そんなタイムトラベル観光気分まで伝わってくるようだ。
観光名所に乗りつけられた軍用ジープ車列。着物姿の地元民と軍服の兵士たち。妙な違和感と、でも観光都市という特性なのか、異質な人間がひとつの街景に溶け込むイメージが、すごく興味深い。