“インド人もびっくり!”日本にしかない「インド全土の料理と食堂案内」

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食べ歩くインド 増補改訂版

『食べ歩くインド 増補改訂版』

著者
小林真樹 [著]
出版社
阿佐ヶ谷書院
ISBN
9784911197011
発売日
2024/04/18
価格
4,290円(税込)

“インド人もびっくり!”日本にしかない「インド全土の料理と食堂案内」

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 ずっと前に、甲子園の高校野球大会で惜敗したチームの監督が「早く帰ってこの子たちに好物のカレーを腹いっぱい食べさせてやりたい」とインタビューに答えていたのを見て胸がつまった。これがカツ丼やラーメンでは雰囲気が出ないので、カレーという食べ物はまさに日本の国民食でもあるのだなあと実感。

 もともと「カレー」という言葉はインドにやってきたイギリス人が、インドの食を固有名詞化した用語であるのは有名な話だが、『食べ歩くインド』は○○カレーなどという言葉ではとても括りきれない、14億のインド人が毎日食べている料理を北から南、東から西まで食べ歩いた驚異の記録。2020年に旅行人から「北・東編」「南・西編」の2冊にわけて出版されたものに、アップデートした情報を加えた増補改訂版、全656ページ! 著者の小林真樹さんはインド食器・調理器具の輸入販売を仕事にしていて、インド各地を30年間にわたって食べ歩いてきたツワモノである。

 きょうは和食、明日は町中華か焼肉かイタリアンか、なんて日々迷っているのは日本人くらいのもので、世界のほとんどの国のひとは毎日その国の料理を食べ、その繰り返しになんの疑問も持たない。インドだって同じ。インドの書店に行けば各地の名店ガイドみたいな本は見つかるだろうが、こんなふうに庶民の食だけに焦点を当てた「インド全土の料理と食堂案内!」(帯文より)なんて、インドの出版社も食通も想像すらできないはず。でも世界中でたぶん日本でだけはこんな庶民食徹底ガイドが出版されて、4290円で買うひとたちがいる。

 あとがきに書かれているとおり、これは本棚に飾っておくのではなくて、分厚いけどインドに持ち込んで「油やマサーラーでベトついた指でページを開き」使い倒すべき本。街場の食堂でおもむろに開いて「インド人もびっくり!」させてほしい。

新潮社 週刊新潮
2024年5月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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