『ファンシー絵みやげ天国』
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恥ずかしいけど懐かしい 胸がキュッとする「昔の親友」
[レビュアー] 都築響一(編集者)
21世紀の日本でもっとも忘却され封印されたデザイン、それは「ファンシー」という感性だろう。パステルカラーのポップで軽薄な多幸感覚。だれもが一目見るだけで「恥ずかしい」「痛い」と顔を伏せざるを得ない恐るべきセンス(の欠如)。それがほんの少し前の日本全土を覆い尽くしていたという事実。あらゆる土産物屋を、あらゆる家庭のお茶の間を。
いまだに京都の新京極あたりではアニメチックな三頭身の新撰組が描かれた暖簾や、プラスチックの模造日本刀や手裏剣や、もらってもうれしくないキーホルダーに修学旅行生が群がっている。そんな「忘れられた過去」のデザインに、ひとりこだわり続ける大衆文化フィールドワーカーが山下メロ。そして増え続ける厖大なコレクションをまとめた3冊目の成果が『ファンシー絵みやげ天国』だ。
収録お土産数484点! 「時をかける幕末の志士」「大河ドラマでブレイクする観光地」「私を極楽スキー天国に連れてって」「花と緑の博覧会みやげ」「ツッパリ・ヤンキー文化と修学旅行」……目次をチラ見するだけで、「そういえばむかし旅先で買ったことある!」「姉ちゃんからお土産にもらった!」と顔を赤らめる多くの日本人に、「かっこいいこと言ってもルーツはこれでしょ!」と突きつけられる、それは残酷な真実だ。
だれもあえて取り上げようとしないけれど、だれもが確実に知ってはいる。メジャーではないけれど、マジョリティではあるものごと。それだって重要な「文化」ではあるはずだが、メディアはたいてい「メジャーではあるけどマジョリティではない」ものごとしか取り上げない。
ずっと昔の親友に再会して、若いころの大失敗エピソードを酒の席で話されて、すごく恥ずかしいけど、なんだか懐かしくて胸がキュッとしたりもする。これはそういう、しまいこまれた記憶のスクラップブックだ。