<書評>『ちんどん屋の響き 音が生み出す空間と社会的つながり』阿部万里江 著

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<書評>『ちんどん屋の響き 音が生み出す空間と社会的つながり』阿部万里江 著

[レビュアー] 松村洋(音楽評論家)

◆音で創り出す公共空間

 派手な装いで鉦(かね)太鼓と管楽器をにぎやかに響かせる街角の広告業者ちんどん屋は、明治時代に原型が生まれ、何回かの浮き沈みを経て昭和末期には消滅するかに見えた。だが、じつは今もしたたかに生き延びている。本書は大阪の業者、ちんどん通信社でフィールドワークを重ねた民族音楽学者が米国で上梓(じょうし)した英語の学術研究書を、ポピュラー音楽研究が専門の音楽学者が翻訳したものだ。

 ちんどん屋の仕事は商店などの宣伝だが、その核心は「音を通じて社会的つながりを作り出すこと」だと著者は言う。音で人々の心を動かし、人間同士の関係や、人間と周りの環境との関係を臨機応変に活性化する。そうした「響き」の公共空間を、ちんどん屋は創り出す。

 「大衆」については、もっと丁寧な議論がほしい。脱原発デモの中のちんどん演奏に関しては、やや過大評価かとも思う。とはいえ、ちんどん屋に限らず、多くの芸能や音楽の現場で起こっていることを理解するための手がかりをたくさん与えてくれる、ユニークな研究書だ。

(輪島裕介訳 世界思想社・3850円)

1979年生まれ。民族音楽学者。米国のボストン大教授。

◆もう1冊

『チンドン屋!幸治郎』林幸治郎著 (新宿書房)。ちんどん通信社創設メンバーが語る 。

中日新聞 東京新聞
2023年4月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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