<書評>『幻のレコード 検閲と発禁の「昭和」』毛利眞人(まさと) 著

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幻のレコード 検閲と発禁の「昭和」

『幻のレコード 検閲と発禁の「昭和」』

著者
毛利 眞人 [著]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784065322574
発売日
2023/11/01
価格
2,310円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『幻のレコード 検閲と発禁の「昭和」』毛利眞人(まさと) 著

[レビュアー] 松村洋(音楽評論家)

◆死なない大衆文化

 戦前のレコード検閲は国家の理不尽な強権発動だったという一般的な見方に、本書は異を唱える。著者は、検閲を行った内務省の文書のほか、膨大な資料を駆使してその意外な実態に迫っている。

 レコード検閲は小川近五郎(ちかごろう)という下級官吏が、なんとほぼ1人で行っていた。音楽好きの彼は「流行歌は大衆の生活、心情に根ざしたもの」と考え、強圧的なレコード規制に反対した。そんな彼の音楽観が検閲に反映されたという。だが、レコード検閲に軍が口を出し始めた1943年、小川は検閲業務から外される。ジャズなどへの風当たりは、ますます強くなった。しかし、“敵性音楽”のレコードは、抜け道を見つけて流通した。

 検閲官の感性と思想。レコード業界の忖度(そんたく)と自主規制。保守的な知識人や大衆の声。それらすべてを押し流そうとする戦争。それでも死なない音楽。著者は、そうしたさまざまな要素が絡み合ったレコード検閲の顚末(てんまつ)を丹念に綴(つづ)っている。国家と大衆文化の関わりについて、多くのことを考えさせられる好著だ。

(講談社・2310円)

1972年生まれ。音楽・レコード史家。著書『SPレコード入門』。

◆もう1冊

『ニッポン エロ・グロ・ナンセンス』毛利眞人著(講談社選書メチエ)

中日新聞 東京新聞
2023年12月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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