<書評>『家なき人のとなりで見る社会』小林美穂子 著

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家なき人のとなりで見る社会

『家なき人のとなりで見る社会』

著者
小林 美穂子 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784000616249
発売日
2023/12/26
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『家なき人のとなりで見る社会』小林美穂子 著

[レビュアー] 松村洋(音楽評論家)

◆心優しい怒り 随所に

 著者は、定職も住まいも失った人たちの支援に日々奔走している。心身ともに疲れる活動だが、コロナ禍は生活困窮者を直撃し、支援者たちの疲弊は限界に達した。それでも、支援の現場を伝える著者の筆致はユーモアたっぷりだ。

 生活保護申請書の受理を渋る福祉事務所。困窮者バッシング。性暴力。「この社会を、生存をかけたイス取りゲームにしてはいけない」という訴えが心に響く。

 故国に帰れない事情がある外国人の窮乏も深刻だ。入管施設からの仮放免者は就労を認められず、生活保護や健康保険も使えず、難民認定率は極端に低い。生きる権利は、だれにもあるのに。

 弱者に冷酷な社会に、著者は怒りまくっている。だが、私たちの多くは怒らない。怒っても不愉快になるだけで、どうせ不正はなくせないと思っている。そんな私たちの“怒る能力”は、ひどく退化してしまったのではないか? だとしたら、その先にあるのはどんな社会? 随所で心優しい怒りが炸裂(さくれつ)する本書は、読者にそう問いかけているようだ。

(岩波書店・2090円)

1968年生まれ。「つくろい東京ファンド」スタッフ。

◆もう一冊

『コロナ禍の東京を駆ける』稲葉剛、小林美穂子、和田靜香編(岩波書店)

中日新聞 東京新聞
2024年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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