<書評>『映画のタネとシカケ』御木(みき)茂則 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

映画のタネとシカケ

『映画のタネとシカケ』

著者
御木 茂則 [著]
出版社
玄光社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784768317464
発売日
2023/03/24
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『映画のタネとシカケ』御木(みき)茂則 著

[レビュアー] 小野民樹(書籍編集者)

◆名場面 陰に緻密な工夫

 映画は言葉ではなく映像がすべてを伝える。ベテランの映画カメラマンが、十一本の映画のすぐれたシーンをA4判の大きな判型に、多色刷りのイラストと平面図を駆使し、スクリーンサイズの選択、カメラの位置と動き、光の方向など映像に込められた緻密な工夫と現代の映画技法を解き明かす映画絵本である。

 例えば、『ジュラシック・パーク』の要のシーン、孵化(ふか)寸前の恐竜の卵が置かれた遺伝子研究室での期待と不安をはらむ一分足らずに、テクノロジー過信と生命倫理軽視への警鐘のテーマを、スピルバーグはどう忍び込ませたか。

 『パラサイト 半地下の家族』で、上流階級に対する下層社会の反感、羨望(せんぼう)、憎悪は一瞬のワンカットにどう描かれたか。『透明人間』の見えない存在感、『ラ・ラ・ランド』の高速道路のダンスシーンの美しさ、『羊たちの沈黙』の残酷シーンの節度はどこにあるか……。

 読んでから観(み)るか、観てから読むか、映画は撮影現場で作られていることを痛感させられる一冊である。

(玄光社・2420円)

1969年生まれ。映画カメラマン。

◆もう1冊

『撮影監督』小野民樹著(キネマ旬報社)

中日新聞 東京新聞
2023年4月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク