大学受験に失敗……その挫折乗り越え、アメリカで成功した女性とは? 宇賀なつみが共感した吉田恵美の考え方

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

国や職種が違っても

[レビュアー] 宇賀なつみ(フリーアナウンサー)


インテリアデザイナーとして活動する吉田恵美さん
(C)Troy Campbell Photographer

 アメリカで活躍する日本人インテリアデザイナー吉田恵美(よしだ・さとみ)による『ニューヨークのクライアントを魅了する「もう一度会いたい」と思わせる会話術』が刊行された。

 大学受験で大きな挫折を味わった吉田さんは、19歳でアメリカに留学。言葉がほとんど聞き取れなかった状況から努力の末、アイオワ州立大学に合格する。

 卒業後は、インテリアデザイナーとして活動し、世界最大のデザインサイト「Houzz」で「Best of Houzz」賞を10年連続で受賞するほか、2018年にフジテレビ系「セブンルール」に取り上げられるなど、注目を集めている吉田さんが綴った本作の読みどころを、フリーアナウンサーの宇賀なつみさんが語る。

宇賀なつみ・評「国や職種が違っても」

 この本には、著者の吉田さんがアメリカでインテリアデザイナーとして培ってきた仕事術が、豊富な具体例と共にまとめられています。職種や経歴はまったく違うのに、私が積み上げてきたメソッドとも重なる部分がたくさんあるだけでなく、新たな気づきを得ることができました。

 たとえば、吉田さんが思うデザイナーの役割とは、〈粘り強くクライアントの言葉を聞くことで、心の奥にある思いの通訳者、または翻訳者になること〉。そのためには、相手の話を「とことん聞く」ことが大事だといいます。そして話を聞く上では、自分が相手に興味を持ち、いかに気持ちよく話してもらうかが最も大切だと書かれています。

 私自身、インタビューの時は、事前にできる限り調べた上で、何を聞きたいのか、話したいのか、想像をふくらませます。でも、気持ちよく話してもらうためには、受け答えの新鮮さが必要。そのために、準備したことは会う前に全部捨てて、あなたに興味がある、話を聞きたい、という気持ちだけを持っていく。人間関係は鏡のようなもので、あなたを知りたいという気持ちが伝わると、相手について「すでに何を知っているか」を伝えなくても、心を開いてもらいやすい――そんな実感とぴったり重なります。

 また、吉田さんが挙げている、初対面の心得のこと、「当たり前」という思い込みに縛られないこと、考え抜いて言葉にすることなど、私が日頃から意識していることが数多く言語化されていて、どんな職種でも、国が違っても、芯の部分は同じなんだと深く頷きました。

「忘れられない仕事」として紹介されている「『フォー・シーズン・パティオ』の依頼」は、予算や条件ではなく、「この方となら良い仕事ができる」という直感に従って引き受けた結果、のちに代表作となる別の依頼につながったというエピソードです。

 フリーランスになった私がつくづく思うのは、仕事は人と人とでするものだということ。「この人と仕事をしたい」と心がときめいたもの、直感的にやりたいと感じたものを大切にすれば、自然とその先の仕事へもつながっていくというのはまさに私の実体験でもあります。

 さらにおもしろかったのは、クライアントに対して最初に「嫌いなものを聞く」という方法。「嫌い」を聞くことで相手の気持ちを浮き彫りにするという質問法なのですが、私はずっと自分自身に対してその問いかけをしてきたことに気づきました。自分が苦手なことや嫌いなものをちゃんと意識して排除したり対処法を考えたりする。それは、自分を知ることであり、生きやすくなることでもある。クライアントの心理を読むことをこえて、私たち読者の生きるヒントになっています。

 吉田さんは、大学受験に失敗したことが大きな挫折だったそうです。でも、受験に失敗したから浪人中にアメリカに留学するきっかけが生まれました。言葉や文化の壁にぶつかったことや、大学で必死に勉強したこと。インテリアデザイナーという職業に出会ったこと。それらが全部、吉田さんのいまにつながっている。

 人生はそういう思いがけないことの連続だと思うんです。ある道を目指して挫折したことは、選択肢がひとつ消えたということ。言い換えれば、別のチャンスが生まれているんです。当時の吉田さんに新たな道が開けたことが、本当にうらやましい。私が同じ年齢の頃は、受験も就職活動も世の中のレールに乗って次の目標に向かっていただけでした。さまざまな可能性が目の前にあったのに、気づかずに過ごしていたのかもしれません。

 吉田さんが若い人に「自分に自信がもてない」と相談された時のエピソードもあります。私も相談される側の年齢になりましたが、自信がないのはみんな同じだと思っています。局アナ時代、さまざまな世界で活躍されている方にインタビューする機会がありました。そこでわかったのは、どんなにビジネスで成功していても、スポーツや芸術で実績を残しても、100パーセント自信がある人なんていないこと。みんな不安で、孤独で、その立場なりの悩みが必ずある。だから、「自信がない」ことは前提だし、原動力でもある。自信がないからこそがんばるし、立ち止まって考えるし、行動する。

 今年の二月に、私もはじめて本を出しました。そこでも書いたのですが、小さい頃の私はネガティブな性格で嫌なことばかり目について、そんな自分のことが大嫌いでした。でも、十一歳の時に近所の図書館で出会った『ポジティブ思考が女を変える』という本が私の人生を変えました。世界は変えられなくても、自分自身が変われば、目の前の世界の見え方が変化すると教えてくれた。

 吉田さんの本も、誰かのそんな一冊になってくれると思います。豊富なキャリアに裏付けられた生き方の知恵とヒントを、若い人にこそ知ってほしい。そして、何者にでもなれる可能性に満ちた若さの価値に気づいてもらえたらいいな。学生時代の私に読ませたいくらいです。(談)

新潮社 波
2023年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク