ハイレベルな仕事をして評価される人に共通する哲学とは? クライアントに信頼される働き方を考える

対談・鼎談

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ニューヨークのクライアントを魅了する 「もう一度会いたい」と思わせる会話術

『ニューヨークのクライアントを魅了する 「もう一度会いたい」と思わせる会話術』

著者
吉田 恵美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784103550716
発売日
2023/05/25
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「家づくり」が日本を豊かにする

[文] 新潮社


2人の対談は、吉田さんが日本に帰国中の7月上旬に行われた

『ニューヨークのクライアントを魅了する「もう一度会いたい」と思わせる会話術』を刊行したインテリアデザイナーの吉田恵美(よしだ・さとみ)さんは、世界最大のデザインサイト「Houzz」で「Best of Houzz」賞を10年連続で受賞するなど高い評価を得ている。

 大学受験に失敗、大きな挫折を味わった吉田さんが、19歳で渡米を決意し、言葉がほとんど聞き取れなかった状況から苦労の末に身に付けたものとは?

 その集大成をまとめた書籍の刊行に際して、ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者で独立研究者の山口周さんをゲストに迎え、人生を豊かにするための本質や愛されるモノづくり、評価される人に共通する哲学を語り合った。

山口周×吉田恵美・対談「「家づくり」が日本を豊かにする」

山口 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は、おかげさまでたくさんの方に読んでいただきました。でも、ビジネスの現場で、美意識を武器に活躍する人が出てきてくれないと説得力がないなと心配だったので、吉田さんのご本(『ニューヨークのクライアントを魅了する 「もう一度会いたい」と思わせる会話術』)を読んで心強く思いました。

吉田 ありがとうございます。

山口 僕の本は、出てからしばらく反応がなかったんです。ビームスの設楽社長がTwitterで紹介してくださったのをきっかけに、山本耀司さんなどファッション関係の人たちが最初に反応してくれました。「言葉にできなかったことをよくぞ言ってくれた」と。

吉田 「言葉にしてもらえた」と感じたのは私も同じです。私自身、直感や美意識が大事だとずっと言い続けてきましたが、言語化しきれていませんでした。山口さんのご本を読んで、私がやってきたことは間違ってなかったんだと勇気づけられました。

山口 吉田さんの本には仕事論と一緒に具体的なエピソードが紹介されていて説得力がありますが、NYのクライアントは大変な方が多そうですね(笑)。

吉田 特に富裕層の方には、なぜこのデザインなのか論理的に説明しないと納得してもらえません。時には説明だけでは足りなくて、そこで大切になるのが信頼関係であり、相手の心に寄り添うこと。気難しい方でも、真剣に向き合うと心を開いてもらえる瞬間があるんです。それで今回、コミュニケーションの大切さについて書きました。

山口 だから「とことん話を聞くこと」を大切にしているんですね。その上で、なぜこのデザインなのかという必然性をストーリーで語っているから、クライアントも「これが最善の選択肢なんだ」と腑に落ちる。実はこれは、アート(美意識)とサイエンス(論理)とクラフト(経験)の最も高度な組み合わせなんです。これができると、洋の東西を問わずに勝ち抜けるんだと吉田さんの本を読んで改めて感じました。

ウィリアム・モリスの言葉


吉田さんはニューヨークを拠点に、近年では日本での活動も広げている

吉田 山口さんは元々、家やインテリアにご興味があったんですか?

山口 僕は日本を本質的に豊かにするには、家が大きなテーマだと思っています。19世紀イギリスにウィリアム・モリスというインテリアデザイナーがいました。彼は家具デザイナーであり、ブックデザイナーでもあったわけですが、思想家、社会運動家という側面もあった。マルクスは「空想社会主義者だ」と彼を馬鹿にしましたけど、僕はモリスが好きなんです。モリスは機械とテクノロジーが進歩した後、最後に人間に残る仕事、人が永久にやり続ける仕事について、素晴らしい言葉を残しています。それは「飾るということだ」と。部屋に花を飾るだけではなく、社会全体を心地の良い空間に変えることが我々の仕事だと。

吉田 素晴らしいですね。人生を豊かにするための本質だと思います。

山口 僕は常々「家は総合芸術だ」と言っています。通常、総合芸術といえばオペラですが、もっと広範囲に創造性を用いて作る作品こそが家なんです。家には、料理、家具、絵画、音楽、植物、建築……全部があります。だから、暮らすことは総合芸術であり、すべての人は芸術家だと考えているんです。
 少し前にニュージーランドに、先月はコペンハーゲンに行きましたが、街並みも家も本当にきれいでした。それが、日本に帰って来た途端、がっくりしちゃって……。

吉田 よくわかります。私も「吉田さんは日本で何がしたいの?」と聞かれると、「インテリアを通して日本を豊かにしたい」と答えますが、なかなかわかってもらえません。家の大切さを少しでもお伝えしたいのですが……。

山口 新潟県に竹所という限界集落だった場所があります。ドイツ人建築家のカール・ベンクスさんが竹所の自然を気に入って、そこにある古民家を「こんな宝物があるのに、どうして新しく建てるんだ。リノベーションすれば、素晴らしい家になる」と、頼まれてもいないのにリノベをはじめたんです。豪雪地帯ですが、床暖房を入れて高断熱の壁と二重サッシにしたら、冬もTシャツ一枚で過ごせる快適な家になった。すると、いまはリモートワークができるから、すぐに買い手がついたんです。4000万円くらいするので現地の相場に比べたらかなり高いですが、東京に比べればリーズナブルですよね。それで、竹所は人口が増えた。そんな風に家が変わると、いろいろなことが変わるはずなんです。

吉田 本当にそう思います。先日、講演で秋田に行った際に県内を案内していただきました。秋田は人口減少率の高さばかり言われますが、素晴らしい自然があって資源も豊富です。何かお手伝いをできたらと考えています。

新潮社 波
2023年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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