「疲労思考」から「穏やか思考」へ。疲れない心を手に入れる考え方

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職場ですり減らないための34の「やめる」

『職場ですり減らないための34の「やめる」』

著者
片田智也 [著]
出版社
ぱる出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784827213973
発売日
2023/05/29
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「疲労思考」から「穏やか思考」へ。疲れない心を手に入れる考え方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

仕事をしていると、しんどい思いをしたり、身も心もすり減ってやる気が出なかったりすることは誰にでもあるはず。しかし、同じ状況にいながらも、物事に振り回されることのない「心が折れにくい人」もいるものです。

では、その違いはいったいどこにあるのか? それは「考え方を選んでいるかどうか」だと主張するのは、カウンセラーである『職場ですり減らないための34の「やめる」』(片田智也 著、ぱる出版)の著者。心の状態は「物事そのもの」と、「物事についての考え」で決まるというのです。

たとえば企画していたイベントがトラブルで中止になるなど、「物事そのもの」を選ぶことは不可能。とはいえ、起きた物事だけで心の状態が決まるわけではありません。「中止になったことをどう考えるのか」、“物事についての考え”は選べるわけです。著者によれば、その際の選択肢は大きく分けて以下の2つ。

心を疲れさせる「疲労思考」か、心を穏やかにする「穏やか思考」か。(「はじめに」より)

「穏やか思考」で考えれば、「いい練習になった」など“失っていないもの”に目を向けることが可能。すると、不満の気持ちを最小限に抑えられるわけです。

よくないことが起きた。だからといって、よくない考えをしなくてはならない決まりはありません。

(中略)「物事は選べなくても、考え方は自由に選べる。というか、むしろ自分で選ばなくてはいけない」。(「はじめに」より)

このような思考に基づき、本書で紹介されている34の考え方をやめれば、心は確実に軽くなると著者は述べています。きょうはそのなかから、chapter5「バカ正直に考えるのを、やめる」に注目してみたいと思います。

「結果を出そう」を、やめる

仕事には結果が求められるものですが、しかし「結果を出そう」などと思ってはいけないと著者は断言しています。なぜなら結果とは、結果的に「出るもの」であって、意図して「出すもの」ではないから。

本来、結果はそれに向けて行動を重ねたことに対する「ご褒美」のようなもの。「おまけ」の位置づけに近いだけに、“結果的なもの”を目的にしてしまうとおかしなことになってしまうわけです。

弓道の世界に「弓返り」という言葉があります。

弓返りとは、矢を放った際、弓が手の中でくるりと回転する現象のこと。これは正しい姿勢で矢を射った場合の結果、つまり、おまけに当たります。

弓返りできている人はカッコよく、何より熟練者に見えるもの。ですが、実力がないのに、意図して「弓返りさせよう」としてしまう人がいるのです。(166ページより)

弓はわざと返すものではなく、自然と返るもの。なのに“結果的なもの”に執着する人は、おまけの部分だけを横取りしようとしてしまうということです。

もしかしたら、ぱっと見はカッコよく、上手そうに見えるかもしれません。しかし肝心の実力が伴っていないのですから、そんなことを続けていたところで上達しないのは当然。しかも「どう見られるか」ばかりを気にしていると、心も疲れてしまいます

しかし、だとすれば、結果とはどのように向き合えばいいのでしょうか?

バドミントンの奥原希望選手は、リオデジャネイロオリンピックに向けた壮行会でこうコメントしています。「ガッツあるプレーを約束します」。

期待されていたのは「優勝します」や「金メダル取りたい」といったコメントなのでしょう。でも、優勝や金メダルなどの結果は、あくまでも結果的に出るもの。「出そう」と思って確実に出せるようなものではありません。

約束できるのは、たとえば、結果に向けて努力したり、全力を出したり、最後まで諦めなかったり、つまり、自身のパフォーマンスまで、なのです。

それならば、自分の意思次第で確実にコントロールできます。(167〜168ページより)

まわりの目には最終的な結果しか映らないので、会社や上司などが結果を求めてくるのは仕方がないこと。しかし本来、それは安易に約束するような性質のものではないと著者はいうのです。

だからこそ、結果ではなく、それに向けたパフォーマンスのほうにこそ責任を持つべきなのだと。結果は結果と割り切って、プレイや仕事、それ自体を楽しむべきだということです。(164ページより)

考えすぎるのを、やめる

「考える」能力を持つ私たち人間は、つい深読みをしたり、先回りして予測したり、行間や空気を読んでしまうなど、 “事実以上のなにか”を必要以上に考えてしまうもの。

もちろん考えることそれ自体は悪いことではありませんが、とはいえ考えすぎるのも問題。とくにネガティブな気分のときは、不安感に襲われたり、落ち込んだり、イライラしたり、必要以上に悪い方向に考えてしまいがちです。だからこそ、そんなときは意識的に考えるのをやめる必要があるわけです。

「こんなことがあった……、もうダメだ」という文章をよく見てください。

前半が示しているのは客観的な事実。でも後半はというと、主観的な考え、要は意見です。(中略)事実と意見はきちんと分けて話す必要があります。ところが、感情的になるとそれらの区別がつかなくなるのです。(186ページより)

では、はたしてどうすれば、そういった“考えすぎ”を防ぐことができるのでしょうか?

気分が悪いときは、「あえて表面的にものを見る」ことです。(中略)そうやって、行き過ぎてしまった考えを事実のほうに戻してあげるのです。(187ページより)

たとえばテレアポの仕事をしていて100件断られたとしたら、事実は「100件断られた」ということだけ。したがってそこから先の、“事実以上のこと”は考えないようにするべきだということです。

考えることは大事だけれど、それで心をすり減らすのは本末転倒。必要以上に考えを深めて自分を傷つけないように、「きょうはダメだな」と感じたら、あえて表面的にものを見て、心のすり減りを防ぐべきだと著者はいうのです。(184ページより)

「どう感じるか」という心の状態を、物事に委ねてはいけないと著者は主張します。なぜならそれは、意志の力でマネジメントできるものだから

こうした考え方を軸とした本書を参考にしてみれば、「なにがあっても疲れない心」を手に入れることができるかもしれません。

Source: ぱる出版

メディアジーン lifehacker
2023年5月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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