『なぜ豊岡は世界に注目されるのか』
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中貝宗治『なぜ豊岡は世界に注目されるのか』(集英社新書)を藻谷浩介さんが読む 小さな町はいかにして世界都市となったのか? 思い馳せるは我が未来
[レビュアー] 藻谷浩介(日本総合研究所主席研究員)
小さな町はいかにして世界都市となったのか?
外国人観光客が再び、日本中に殺到しつつある。いったい日本のどこにそんなに魅力があるのか、皆さんは実感できているだろうか。
物価が安い、治安がいい、東京や京都に一度行ってみたい、初回はそういうような動機だろう。だが、訪日回数がそれこそ二桁以上のリピーターであれば、多くが感じているはずだ。「日本の魅力は、都会以上に地方にある」と。豊かな自然と歴史、個性ある食、時間的・空間的にゆとりある暮らしぶり。日本人特有の「東京はエラい、田舎はダメだ」という先入観がない分、外国人は地方の持つ世界的な価値を、ストレートに理解できている。
しかしそんな日本の地方都市には、確かに欠けているものもある。今の世界の最先端を走るような文化が乏しい。都会以上に男尊女卑の気風が残り、有為(ゆうい)な女性がチャンスを感じられない。だがあきらめるのは早いだろう。地方都市でも最先端の文化を持てるのではないのか。女性が生き生きと仕事をして経済力を持ち、男性が生き生きと家事もして生活力も持つ、そんな風土が作れるのではないか。欧州の田舎にあるような「小さな世界都市」に、我が町だってなれるのではないか。
この本は、そんな思いを本当に実現した人の物語だ。兵庫県北部・但馬(たじま)地方の中心地、コウノトリの住む豊岡市の市長として5期20年。退任した今も、地元の芸術文化観光専門職大学の学生の支援や、演劇を取り入れた認知症ケアの取組みに力を入れて、多忙な毎日だ。そんな豊岡に移住した、世界的な劇作家の平田オリザさんは、「国際映画祭のカンヌ7万人、国際演劇祭のアヴィニヨン9万人。豊岡演劇祭の豊岡は8万人。小さい町こそ世界都市になる時代」と語る。
巨大化する東京でガラパゴス化する日本と心中するか。小さな世界都市で、世界に通じる文化と暮らしを担うか。あなたはどっちだ? ぜひこの本を読んで考えて、できれば現地に足を運んでみて欲しい。
藻谷浩介
もたに・こうすけ●(株)日本総合研究所 調査部主席研究員