「現金」も「クレカ」も持たずに北海道を縦断!犬と狩猟しながらのサバイバル旅

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北海道犬旅サバイバル

『北海道犬旅サバイバル』

著者
服部文祥 [著]
出版社
みすず書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784622096535
発売日
2023/09/13
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

現金もカードも持たなければ世界は荒野になるのではないか?

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

 著者・服部文祥氏の肩書に、「サバイバル登山家」というものがある。「サバイバル登山」とは服部氏自身がこの約二十年、実践し進化させてきた登山の先鋭的な手法・哲学だ。フリークライミングの考え方を取り込み、自然に対していかに「フェア」になれるか、という視点で山に登る。具体的には燃料やテントを持たず、最低限の食料を持って山の奥深くに分け入り、岩魚や山菜などを調達しながら登山を続けるというものだ。

 服部氏のデビュー作『サバイバル登山家』は南アルプスや日高山脈でこの「サバイバル登山」を実践する自らの姿を描き、読者に衝撃を与えた。そして、彼は後に狩猟免許を取得し、鹿などを撃って食料を得ながら、できる限り長く山を旅するという「狩猟サバイバル」へとそれを発展させていく。

 では、そんな服部氏の登山の現在地とは、どのようなものなのか。

 本書は狩猟犬として飼い始めた「ナツ」とともに、秋の北海道を旅した記録となっている。舞台は宗谷岬から襟裳岬まで、700キロメートルに及ぶ分水嶺。2カ月にわたって狩猟を続けながら、北海道の南北を縦断した。そのなかで意識されているのは〈現金もクレジットカードも持たなければ世界は荒野になるのではないのか?〉という仮説だ。実際に「荒野」が立ち現れたのかどうかは、ぜひ本書を読んで確かめてみて欲しい。

 それにしても、この記録を読んでいると、今回の旅が服部氏のこれまでの生き方が凝縮された一つの「表現」であったことを実感する。

 50歳にして痛む膝、トレッキングや藪漕ぎ、雪山登山や沢登りの経験……。そこに3年間訓練したナツと食料調達の技術が溶け合う。

 自らの持つ能力を最大限に発揮するとは、どういうことなのか。その「瞬間」を大胆に描こうとする筆致には、服部氏の唯一無二の美学を感じさせる迫力があった。

新潮社 週刊新潮
2023年10月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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