『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』戸谷友則著

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宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在

『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』

著者
戸谷 友則 [著]
出版社
講談社
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784065325827
発売日
2023/07/20
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』戸谷友則著

[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)

「奇跡」解明へ 二つの理論

 地球上の最初の生命とはいったい何だったのか。誰もが気になるこの疑問について、最新の研究成果が分かりやすく語られている本書は、好奇心をくすぐる最高の贈り物だ。本書の特徴は、宇宙誕生から今に向かって考えるアプローチと、その逆である今の私たちから生物の進化を辿(たど)っていくアプローチの両側から生命の源に迫るというもので、ワクワク感が2度楽しめる内容になっている。このためには、宇宙論と生物学の両方の深い知識が必要だが、どちらも極めた専門家はおそらく世界に一人もいない。そこに敢(あ)えて挑戦する著者は、宇宙論の専門家であり、かつ生物学を学びながら驚くべき方法で解明の糸口を見つけていく。

 そもそも生命とは何か。これは答えのない難問だが、例えば生命らしさの一つとして自己複製が考えられるだろう。ところが無機物を組み合わせて、次々と自己複製する「生命もどき」を実際に作った人はまだ誰もいない。適当に分子を結合させただけで、こうした性質は自然には生まれないだろう。だが私たちが今ここにいるということは、この奇跡が実際に起きたかもしれないのだ。そしてそのとてつもなく低い確率でも、宇宙論を駆使すれば起こり得ることが驚くべきロジックで本書に示されている。

 逆に様々な生物の遺伝子情報を遡って調べていくと、どうやら共通の祖先にたどり着く、ということも分かっている。その最初の生命は、およそ38億年前に誕生したらしい。この現代からと宇宙の始まりからの反対向きの道がつながるところが本書のクライマックスで、読みながら知的興奮が止まらない。

 ただ本当にどうやって生物が誕生したのかは、もちろん誰にも分からない。著者も書いているように、もしかしたら未知の原理がまだあるかもしれないのだ。宇宙と生命の神秘に想(おも)いを巡らせながら、私達(たち)がここにいる奇跡をかみしめることができるオススメの一冊である。(講談社ブルーバックス、1100円)

読売新聞
2023年10月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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