『芝居の面白さ、教えます 日本編 井上ひさしの戯曲講座』井上ひさし著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

芝居の面白さ、教えます 日本編

『芝居の面白さ、教えます 日本編』

著者
井上 ひさし [著]
出版社
作品社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784861829888
発売日
2023/07/19
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

『芝居の面白さ、教えます 日本編 井上ひさしの戯曲講座』井上ひさし著

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

三島や安部 本音で語る

 没後10年以上経(た)つ今も、上演が相次ぐ井上ひさしの戯曲は、笑っているうちに思わずしんみりする言葉や大切な日本語が胸に飛び込んでくる。その稀代(きだい)の劇作家・小説家が、長年館長を務めた仙台文学館で行った戯曲講座での語りを中心にまとめたのが本書である。「サド侯爵夫人」の三島由紀夫など5人が俎上(そじょう)にのぼる。

 杜の都・仙台は、小説『青葉繁れる』で描かれたように、井上が仙台一高で青春の苦楽を味わった地。第二の故郷でリラックスしたせいか、戯曲の面白さを語る作家の楽しげな顔、芝居愛の熱い息づかいまで感じられる。

 戯曲『元禄忠臣蔵』で知られる真山青果については、母校・一高の前身、宮城県尋常中学に真山が在籍した当時、同級生に投稿少年時代の吉野作造がいたこと、自らの若き日の思い出など脱線を繰り返しながら、グイッと本質に迫る。大見得をきる歌舞伎など〈観(み)る〉ものだった見世物を、日本語のすばらしさを〈聴かせる〉芝居にしたのが真山だった、と。三島や菊池寛、宮沢賢治などの作品のポイントを、伝記的史実や作劇法から迫る語り口はドラマチックである。

 ただし、第三回谷崎潤一郎賞を「友達」で受けた安部公房について語る最終章は異色だ。『砂の女』など前衛小説については非常に高く評価しながら、戯曲は〈すべてつまらないんですよね〉と痛烈な評価をくだす。根はやさしい人だから講演では、自身の芝居を書き直し中で、自分の〈劇作家としての見方が非常に極端に出ている〉ときだから、〈今日の話は八〇パーセントくらい割引いて聞いて〉と弁明している。

 裏を返せば、井上の芝居哲学を鮮明にする迫力がある。そのモットーとは〈誰にも書けないことを誰にもわかるように書く〉。今も生前の笑顔が目に焼き付いている作家の、作品への矜持(きょうじ)と、他人の芝居が〈良ければ腹が立つ〉という負けん気、本音がずばり出ていて、その剛速球に思わず何度かのけぞった。海外編もある。(作品社、2970円)

読売新聞
2023年11月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク