『スポーツの価値』
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爽快な投げ技、寝技、柔道家の小気味いいスポーツ論
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
「はじめに」の中に「いまだに昭和世代が決定権を握っている日本こそ、真の意味でのスポーツが必要です」とあり、いきなりごもっともでとなりました。そして直後に「これまでのやり方から脱却するために、スポーツが果たせる役割は大きいと考えています。スポーツには、それだけの可能性があるのです」と続き、励まされて本文へと入りました。
小気味がいいくらいに山口香節が全編に貫かれています。褒めるべき人を絶賛しますが、そうでない人には手心が加えられます。武士の情け、いや柔道家の情けと言うべきもので、ハッキリものを言いつつも、著者の持つ優しさが伝わってきます。
女子スピードスケート金メダリストの小平奈緒さんは絶賛されます。2030年冬季五輪札幌招致への協力を依頼された小平さんは「スポーツの純粋な楽しさをもう一度考え直したい」と辞退しました。褒める理由は「『上の人から言われたことは何でも受け入れる』というこれまでの日本のアスリートとは違う空気を感じ」たからです。
プーチンと親密な関係を築いた山下泰裕JOC会長は、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したとき「皆が思っているほど親しいわけではない」とのコメントを出すに留め、4月になってようやく「柔道の精神、目的に完全に反する。まったく容認できない」と非難の声明を出しました。山下さんはコロナ禍での五輪開催にも前のめりでした。私などはこの頃からガッカリし、山下さんに見切りをつけたのですが、著者はこの柔道界の先輩をかばいます。「山下さん本人のスタンスはこれまでと同じなのに、メディアや世間はスポーツでのイメージを捉えて勝手に偶像をつくり上げて期待し、失望しているように見えます」と。どうです、優しいではありませんか。
本書により、私のスポーツの見方は、昭和からだいぶアップデートできました。