爽快な投げ技、寝技、柔道家の小気味いいスポーツ論

レビュー

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スポーツの価値

『スポーツの価値』

著者
山口, 香
出版社
集英社
ISBN
9784087212761
価格
1,078円(税込)

書籍情報:openBD

爽快な投げ技、寝技、柔道家の小気味いいスポーツ論

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

「はじめに」の中に「いまだに昭和世代が決定権を握っている日本こそ、真の意味でのスポーツが必要です」とあり、いきなりごもっともでとなりました。そして直後に「これまでのやり方から脱却するために、スポーツが果たせる役割は大きいと考えています。スポーツには、それだけの可能性があるのです」と続き、励まされて本文へと入りました。

 小気味がいいくらいに山口香節が全編に貫かれています。褒めるべき人を絶賛しますが、そうでない人には手心が加えられます。武士の情け、いや柔道家の情けと言うべきもので、ハッキリものを言いつつも、著者の持つ優しさが伝わってきます。

 女子スピードスケート金メダリストの小平奈緒さんは絶賛されます。2030年冬季五輪札幌招致への協力を依頼された小平さんは「スポーツの純粋な楽しさをもう一度考え直したい」と辞退しました。褒める理由は「『上の人から言われたことは何でも受け入れる』というこれまでの日本のアスリートとは違う空気を感じ」たからです。

 プーチンと親密な関係を築いた山下泰裕JOC会長は、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したとき「皆が思っているほど親しいわけではない」とのコメントを出すに留め、4月になってようやく「柔道の精神、目的に完全に反する。まったく容認できない」と非難の声明を出しました。山下さんはコロナ禍での五輪開催にも前のめりでした。私などはこの頃からガッカリし、山下さんに見切りをつけたのですが、著者はこの柔道界の先輩をかばいます。「山下さん本人のスタンスはこれまでと同じなのに、メディアや世間はスポーツでのイメージを捉えて勝手に偶像をつくり上げて期待し、失望しているように見えます」と。どうです、優しいではありませんか。

 本書により、私のスポーツの見方は、昭和からだいぶアップデートできました。

新潮社 週刊新潮
2023年11月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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