『シェニール織とか黄肉のメロンとか』江國香織著

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シェニール織とか黄肉のメロンとか

『シェニール織とか黄肉のメロンとか』

著者
江國 香織 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758414494
発売日
2023/09/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『シェニール織とか黄肉のメロンとか』江國香織著

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

 読み終えて顔を上げた瞬間、この人たちが本当は存在していないということに呆然(ぼうぜん)とした。そのくらい、登場人物たちが生きている。

 中心となるのは、学生時代に読書サークルで知り合った「三人娘」。表題のシェニール織やメロンはその頃輝きを放っていた言葉だ。それから30余年がすぎ、いまはみな「初老」にさしかかっている。独身で母と2人住まいの作家の民子、2人の息子を育てる主婦の早希、海外生活の間に二度の別れを経験した理枝。理枝が帰国して民子とその母、薫の家に居候を始め、彼らの人間模様が動き出す。

 とりたてて事件というほどのことは起こらない。上記4人の視点から代わる代わる、互いによって生活が心地よく刺激され、少しだけ変化する様が語られる。悪びれない理枝を受け入れ、いくらでもお喋(しゃべ)りを聞く民子を、昔からこうだったと眺める早希。若い友人たちの語りも時折挟まれるが、軸はあくまで、端から見れば地味な中高年にある。彼らは他愛(たわい)もない話をしながらふと昔の光景を思い出し、人の変わらなさと愛(いと)しさを噛(か)みしめる。そんな大人たちに染みる物語だ。(角川春樹事務所、1870円)

読売新聞
2023年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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