『思い出すこと』ジュンパ・ラヒリ著

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思い出すこと

『思い出すこと』

著者
Lahiri, Jhumpa中嶋, 浩郎
出版社
新潮社
ISBN
9784105901905
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

『思い出すこと』ジュンパ・ラヒリ著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

 短編、長編、エッセイ、翻訳と書を重ねてきたジュンパ・ラヒリの最新作は、詩集だ。

 と言っても、ただ詩だけではない。構成が非常に面白い。ラヒリがローマのアパートの机の引き出しから見つけたノート、そこに書かれたネリーナという女性の詩だという。ネリーナ、その詩の考察をするヴェルネ・マッジョ博士、つまり本書でラヒリは、詩の監修者、作者、注釈者、三つの役割をこなしている。

 イタリア語で書かれた詩だが、ネリーナの母語は違うらしい。ここには、ベンガル系インド人移民の子としてロンドンで生まれ、アメリカに移り、ローマに移ってイタリア語で創作を続けているラヒリの言葉との呼応がある。ラヒリはインタビューの中で「ある言語からべつの言語に移るたび、言語的な新たな変化と新たな認識が生まれる」と語っている。それをまた日本語で読むというのも、いっそう味わい深い(翻訳がどれほど大変だっただろう!)。

 言葉から言葉、詩から考察、日常から思想、螺旋(らせん)を描くように詩の中をたゆたう。唯一無二の美しさ。中嶋浩郎訳。(新潮クレスト・ブックス、2200円)

読売新聞
2023年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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