知らんおっさんがリビングにいるのが日常だった…漫画みたいな家庭で育ったAマッソ加納の抜群のセンスとは? 作家・綿矢りさと語り合った自分の世界

対談・鼎談

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行儀は悪いが天気は良い

『行儀は悪いが天気は良い』

著者
加納 愛子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103553717
発売日
2023/11/16
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

最強にハートフルな“しゃべくりエッセイ”爆誕!

[文] 新潮社


加納愛子さん(左)と綿矢りささん(右)

加納愛子×綿矢りさ・対談「最強にハートフルな“しゃべくりエッセイ”爆誕!」

 お笑いコンビ・Aマッソの加納愛子さんによるエッセイ集『行儀は悪いが天気は良い』(新潮社)が刊行された。

 生まれ育った環境や多感な学生時代、芸人としての日常までを綴った本作には、いじめ、芸人を志した原点、親友・フワちゃんの素顔など、テレビには映らない加納さんの姿や想いが描かれている。

 この自伝的エッセイに興味を持ったのが、作家の綿矢りささんだ。2004年に『蹴りたい背中』で芥川賞を史上最年少で受賞し、その後も話題作を発表し続けている綿矢さんが注目したのは、加納さんの過去を文章に落とし込む抜群のセンスだといいます。

「読書好き芸人」として雲の上の存在と憧れる綿矢さんの評価に謙遜する加納さんだが、文壇の第一線で活躍する作家は、なぜそのように思ったのか?

 芸人と作家がエッセイを書くということを軸に、互いの世界観を語り合った。

めっちゃ喋りながら書く

綿矢 テレビで私の本を紹介して下さってありがとうございました。

加納 こちらこそ、まさかお会いしてお話しできるとは……。今こうしているのが意味わからんぐらいな感じです。

綿矢 私もお会いできるのを楽しみにしていました。加納さんの新刊『行儀は悪いが天気は良い』を読んでいると、同じ出来事を私の方がちょっと上の年齢で体験していて。

加納 私、1989年生まれです。

綿矢 私の方が5歳上だ。そう、だから例えば「だんご3兄弟」に対する受け止め方が、年が違うだけでこんなに違うんだと新鮮でした。

加納 私が小学4年生の頃でしたから、綿矢さんはそうか、もう中学生だったってことですもんね。

綿矢 もっと幼かったら、このくらい純粋な気持ちで「だんご3兄弟」に向き合えたのかなって。

加納 確かにあれは、かなりしっかり「向き合って」ました(笑)。

綿矢 面白がるには、私は少し成長しすぎていたなぁ。もう今日はたくさんお尋ねしたいことがあって、メモをしてきたのですが、お聞きしていってもいいですか?

加納 はい、ぜひぜひ!

綿矢 エッセイを読んでいると、チャキチャキした元気の良い文体のせいか、アニメ『じゃりン子チエ』の快さを思い出しました。

加納 もちろん見てました! で、「似てる」ってめっちゃ言われます。

綿矢 あ、言われますか?

加納 私は大阪の住吉出身で、住んでいた地域がアニメの舞台と近いということも多分あるんかな。

綿矢 文体というか、文中で使われている大阪弁の印象に加え、ご家族やご実家によく来ていた謎のおっちゃんたちのキャラクターも濃くて、『じゃりン子チエ』だ!と。それに、皆さんお話がお上手で、コミュ力の高さにも驚きました。常に周りに人がいるようなご家庭だったんですか?

加納 そうですね。両親の友人がいつも出入りしていました。家帰ったら知らんおっさんがリビングでくつろいでいるのが日常でしたね。めっちゃうざかったです(笑)。

綿矢 そんな漫画みたいなことが! 加納さんを取り巻く人たち全員のギャグのレベルの高さといい、和気藹々とした雰囲気といい、ユニークな環境だったんだなぁと。

加納 友達の両親との関係を聞いて、うちはちょっと喋りすぎていたんだ、結構異常な環境やったんだなって、気がついたのは大人になってからでした。

綿矢 加納さんの場合、喋ることがお仕事でいらっしゃるので、文章を書くときは、頭の中で喋りながら書いてますか? それとも、「書こう」と決めて、書く方の言葉で書いていますか?

加納 あまり意識したことはないですが、多分喋りながら書いているんだと思います。私の場合、ネタの台本が「書く仕事」のスタートで、それは絶対喋りながら書いていて、なんやったら実際に口にも出しながら書いている時もあります。逆に喋らんパターンで綿矢さんは書かれるのですか? 目で書くってことですか?

綿矢 そうですね。頭の中で音声にせんと書く文章もあれば、例えばセリフとかは頭の中で喋りながら書くときもあって、二つある感じが自分ではしています。

加納 なるほど。

綿矢 加納さんのエッセイは、ずっと親しげに喋りかけてくれているようで、文体がとてもやさしくハートフルな感じがしたから、どんなふうに書かれているのか気になったんです。文体の温かさが他のエッセイと圧倒的に違うなって思いました。

加納 めっちゃ嬉しい! これからもめっちゃ喋りながら書きます(笑)。

新潮社 波
2023年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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