知らんおっさんがリビングにいるのが日常だった…漫画みたいな家庭で育ったAマッソ加納の抜群のセンスとは? 作家・綿矢りさと語り合った自分の世界

対談・鼎談

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行儀は悪いが天気は良い

『行儀は悪いが天気は良い』

著者
加納 愛子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103553717
発売日
2023/11/16
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

最強にハートフルな“しゃべくりエッセイ”爆誕!

[文] 新潮社

エッセイふうの小説

綿矢 今回の新刊には、幼少期や学生時代、芸人になられる以前のお話を書かれていて、お父さんやおっちゃん以外にも高校の友達のキャラの立ち方には、嫉妬すら覚えました。休み時間に教室で曲を流して……。

加納 シンディ・ローパーの『Time After Time』を流している間、なぜか「Time After Time」のフレーズが来たら全速力で集まるあれですね(笑)。

綿矢 そんな面白いことを思いつくこと自体、笑いのレベルがかなり高いわけですが、それ以上に、それらを細部にわたって覚えている加納さんの記憶力のすごさと、笑わせようと狙って書かれた文章ではないのに読んでいて思わず笑ってしまうのは、過去を文章に落とし込む際のセンスが抜群やな、と。

加納 いやいやいや。「あんた何も覚えてへんな」って昔の友達に言われることもあるので、覚えているポイントが「笑い」に特化しているだけなんやと思います。「こいつおもろかったな」って記憶はあるのに、その子の部活が何部だったかは覚えていなかったりで。

綿矢 加納さんのエッセイの賑やかさを楽しんだせいか、私は自分のエッセイが本当にただただ「自分の感想」に終始していることが改めて問題やなって感じました。

加納 「自分の感想」というと?

綿矢 私はこう思ったとか、こういうところが良いと思ったとかばかりで、全部自分で完結しちゃっているんです。他者が全然出てこない、この「閉じ方」やばい!って焦ったし、自分のエッセイに寂しさを感じました。だから、次に書くときは「人」を登場させなあかんな、と。

加納 登場人物を増やすんですね。

綿矢 でも以前、大先輩の女性作家の方とお話しした時、その方がエッセイで書かれるご家族との会話が私は好きで、いつもこんなふうに話されているんですか?と聞いたら、「いや、全部架空よ」と言われたことがあって。

加納 ええーー。全部架空!?

綿矢 なので、最終的には、私も空想で書けば良いんだとは思っています(笑)。

加納 それはもう小説ですやん(笑)。

綿矢 確かに小説ですね、エッセイふうの。

加納 たとえ空想だとしても、エッセイという形態で書くのと、小説で書くのでは、全然違う仕立てになるものですか?

綿矢 そうですね。私の場合エッセイでは、あまり難しいことは書きたくないって思っています。ついつい難しいことを書きたくなってしまうのですが、そうすると読んでいる方は「リラックスして読んでたのに、急にシリアスな話題持ち出してくるやん?」みたいな気持ちになることがあるかなと(笑)。小説でシリアスになるのは大丈夫だけれど、エッセイでは絶妙な緩さを保ったまま書き進めていきたい。

加納 難しいというのは、テーマですか? それとも、感情の深いところに潜っていくような難しさですか?

綿矢 あくまで自分の好みとして、小説のように「主題」が強めに前に出てくると読みにくいと思ってしまうというか……。読者が面白がれる愚痴とかなら良いのですが、シリアスにはなりたくないなと。誰かと出かけたり買い物したり、そういう出来事を書けば、加納さんのように賑やかなエッセイになるのかなぁ。

加納 そんな、恐れ多いです……!

綿矢 でもそれは、まるまる一編、架空の出来事かもしれませんが(笑)。

新潮社 波
2023年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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